第8話

 入学試験の日が来た。

 試験内容は、座学、魔法、武術の3科目で合格ラインは70点以上でそれ以下は不合格か補欠待ちでの繰り上げ合格になる。

 座学試験は…簡単だった。

 この世界の識字率は驚く程に低い。前世の小中学校並みだ。

 魔法試験は…簡単だった。

 エアバレット1発で的を破壊して、その後ろの魔法障壁が展開されている壁を貫通してしまった。

 武術試験も…簡単だった。

 学校の試験官との模擬戦をしたが、試験官の模擬剣を斬り飛ばして喉元に切先を突き付けると、試験官が降参を宣言した。


 …簡単過ぎじゃないのかな?


 クロードはこの中等学校の教育水準の低さに不安を感じた。

 視線を感じたのでその方向に目を遣ると、校舎の5階からブルガー校長と30代くらい超絶眼鏡美人(語彙力の低さに笑った)がクロードを見下ろしていた。

 鑑定しようと思ったが、勝手に鑑定をするのはマナー違反なのでやめたが、それなりに強いのは何となく分かった。

 クロードはブルガー校長と超絶眼鏡美人さんに一礼して、試験会場を後にした。


「如何でしょう。あの子はお気に召しましたかな?」

「そうですね。あの子は…化け物ですわね」

「確かに化け物ですな。ですが、悪き者ではございませぬぞ?勿論、教育の仕方次第で悪に染まるやもしれませぬが、その心配はまずないとみております」

「ふむ。ブルガー殿がそこまで言うのならそうなのでしょう。分かりました。あの子を娘の…シシリアの側に置く事を認めましょう」


「女王陛下の御意のままに」


 何とこの超絶眼鏡美人さんはこの国、フラーゼ王国の女王ミリアリア・フォン・アラーゼ陛下だったのだ。

 女王陛下の第3王女シシリア殿下が何を思ったか、王都にある中等学校ではなくて、ここブランシェット辺境伯領のルーシェン中等学校に入学したいと言い出したので、学校内での側近にも護衛にもなれる者を入学試験で品定めしていたのだ。

 シシリア王女殿下には既にシルベルザー侯爵家次女ナタリア嬢とカンザラナブ子爵家三女ジャスミン嬢(本当は王都の中等学校に通いたかった)がいるのだが、男の側近がいないのは少し心許ないので、そのために品定めしていたのだが、そこで化け物を…クロードを見付けた。

 子供の範疇を遥か昔に越えているだろう程の戦闘能力を持ち、座学も完璧な人物が平民という枠の中に埋もれていたとは驚きだ。

 ミリアリア女王陛下はクロードの洗練された魔法と剣術の腕前を見て、


 この子は遠くない未来に素晴らしい功績をあげるわね。取り敢えず今は騎士爵にでも叙爵しておきましょう。青田買いにはならないでしょう。


 そんな女王陛下の心の内を悟ったのだろうブルガー校長の顔に笑みが浮かんだ。


 クロードくんや。君の将来は約束されたぞ。罪を犯さない限りは一生安泰じゃぞ。


 こうして、クロードの人生は本人の了承がない内に決まってしまった。

 当然、冒険者としても活動し続けるのだが、騎士爵とは言え貴族は貴族なので、貴族として最低限の義務を果たさなければならないので、叙爵されたクロードはきっと溜め息をつくだろう。

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転生社畜は、自由を求めて何処に行く? 壱村次郎 @inoue1145

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