母から娘へ

町から逃げ出したヴァネッサ達だったが逃げる際のパニックで町の人々は散り散りに

今ヴァネッサと共に行動しているのはリーサとレイラ、フィールの4人だ

もっと遠くまで離れたかったが町を離れて1時間以上、ヴァネッサとフィールの体力を考えれば休息を入れる必要があるとリーサは考えて森の中の岩場に身を隠していた


ヴ『お母さん…お父さんは無事だよね、すぐに来るよね』

リ『…ええ、きっと後から来るわ、だから安心して』

リーサはゴランは死んだと分かってはいるがヴァネッサをこれ以上不安にさせないためにそう言った


フィールは疲れからか寝ている

10分程休んだがヴァネッサに疲れの色が見えている

レ『リーサ、ヴァネッサさえよければ移動しよう フィールはベルトで締めて私が背負っていく』

リ『わかった』

ヴ『お母さん私は大丈夫だよ』

ヴァネッサは無理を押してそう言った

リ『…よし行こう、ヴァネッサこれ持っていなさい』

そう言いリーサは腰に着けていたダガーのベルトを外しヴァネッサに装着した

そして1本を自分で持った

リ『私とレイラで戦うけどもし死角から襲われたりすると危険だからそれで身を護りなさい』

ヴ『お母さんが持っていたほうが…』

リ『情けない話だけど母さんは2本も扱える自身ないよ、若い時は使えてたんだけどね』

そして4人は隣町ルースに向けて歩き出した

他に逃げ出した住民もおそらくそこを目指すだろう

目的地が近くなれば自然と合流できる可能性が高い

レ『リーサ…ルースの町までの方角はわかる?』

リ『この方向で間違いないはず、順調にいけば1時間もかからないと思う』

リーサがそう言った瞬間フィールを背負ったレイラがフィールごと上から槍で貫かれた

リ『っ!!』

槍を持ったコボルトだ

フィールは頸椎を突き割られている、おそらく即死だろう

レイラも位置的に心臓をやられていて致命傷だ

リーサはダガーでコボルトの首を斬り、即座に左目を刺す

ヴ『フィール!おばさん!』

レ『う…リーサ…フィールは…』

リーサは苦虫を噛み潰したような顔で首を横に振る

レ『………行って、ゲホッゴホッ私はもう助からない』

リ『うっ…ごめんレイラ…』

リーサはヴァネッサの手を取り走り出す

ヴ『お母さん!レイラおばさんとフィールを連れて行かないと!』

ヴァネッサは泣きながらそう言う

リーサはそれに対して何も言わなかった

そんな中後ろから殺気を向けられていることに気付く

リ『(モンスターに追われている…私の腕力と体力じゃヴァネッサを抱くと遅くなる、かといってこのままじゃ追い付かれる!)』

リーサは覚悟を決めた

リ『ヴァネッサ!このまま真っ直ぐ走って!』

ヴ『お、お母さんは!?』

リ『ここでモンスターを食い止める』

ヴ『私も戦うよ!』

リ『ダメよ、あなたが居てもかえって足手まといになる このまま走り続けて、大丈夫よモンスターを倒したらすぐに私も追いかけるから』

ヴ『でもお母さんが死んじゃったら!』

リ『こんな所で死ぬつもりはないよ、母さんがあなたとの約束を破ったことある?』

ヴ『…わかった絶対に約束守ってね、絶対だよ!』

リ『うん、絶対よ…さあ行って!』

リーサは立ち止まり後ろを振り向く

ゴブリンが3体追ってきている

リ『(よしゴブリン3体ならギリギリなんとかなりそう)』

リーサは肉体強化魔法を使い一番近くに居たゴブリンの腹を裂く

2体目のゴブリンが小ぶりの棍棒で殴りかかって来たのをダガーで防御する

直後3体目のゴブリンに左大腿部をナイフで刺される

痛みを堪えながら3体目のゴブリンの首を切り裂き刺さったナイフを抜く

リ『(ぐっ痛いっ…早く回復魔法を)』

回復魔法をかけようとした時草むらからさらに4体のゴブリンが飛び出して来た

うち2体が後ろに着地する

リ『これ…多分ダメね、でも最後まで諦めない…せめてヴァネッサが逃げるだけの時間を!』


一方ヴァネッサはリーサに言われた通り走り続けている

すると

『君!どうした!』

誰かがヴァネッサに声をかけた

ルースの町の討伐隊員だ、数は5人

ヴ『お願いお母さんを助けて!後ろの方でモンスターに襲われてるの!』

『お前らあっちの方向に女性がいるらしい!行くぞ!』

討伐隊員4人はリーサの救助に向かい1人はヴァネッサを保護した

『お嬢ちゃんは先に町に行こう、ここは危険だからな』

ヴ『お母さん…お願い無事でいて』


リ『あと…一体…』

リーサはゴブリンを残り1体まで撃破したものの左腕は上腕から食いちぎられ左足は先程刺された傷と右胸に汚れたナイフが刺さっている

意識は朦朧としダガーを持った右手にも力が入らない

目の前には棍棒を振りかぶったゴブリンがいる

リ『(ヴァネッサ…約束破っちゃった…ごめんね…)』

無情にも棍棒は振り下ろされリーサの頭蓋が粉砕された

その瞬間ゴブリンの首が飛ぶ

『クソッ一瞬間に合わなかった…』

『あの子の母親だろうか』

『遺体を回収するぞ』

討伐隊員はリーサの遺体を回収して町に戻った


ルースの町 診療所

ヴァネッサは討伐隊員に連れられ怪我がないか診察を受けている

周りを見渡すと同じヨグの町から逃げて来た人も何人か居た

ヴ『(お母さん…お母さん…)』

診察が終わり母を待ち続けるが体力が限界だったヴァネッサは眠りに落ちた


約6時間後にヴァネッサは目覚める

周りでは怪我をした同じ町の人達がベッドで寝ており比較的軽症な者は床で寝たり座ったりしている

ヴァネッサも床で寝ていた1人だ

隣に知り合いのユーリがいたのでヴァネッサは話しかける

ヴ『あのユーリおじさん、お母さん見てませんか?』

ユ『ヴァネッサ…起きたのか、…リーサは…』

ユーリはそう言って言葉に詰まる

ヴ『知ってるんですか!お母さんは何処に居るんですか!お父さんは無事なんですか!』

ユーリは俯いており、その反応からヴァネッサは嫌な予感が止まらない

ヴァネッサは部屋を飛び出した


ヴ『お母さんどこ!お父さんどこなの!』

走りながら探していると誰かにぶつかる

助けてくれた討伐隊員だ

隊員『キミは…』

ヴ『あ、あなたは…教えてください!お母さんはあの後見つかったんですか!何処に居るんですか!』

隊員『(…遅かれ早かれ知ることになるんだ…教えてやらないとな)』

隊員『ついて来なさい』

討伐隊員はヴァネッサをある部屋へと案内する

部屋には死体が何体もあった

部屋へと案内されたヴァネッサはリーサを見つけた

ヴ『お、かあ…さん?』

リーサは変わり果てた姿をしていた

左頭頂部は潰れ左腕は食いちぎられている

その他にも大小様々な傷が…

ヴ『約束…したのに…なんで…お願いお母さん目を開けて!嫌だよお母さん!嫌だよ!』

討伐隊員は見ていられなくなりその場を去ってしまう

ヴァネッサはリーサが死んでいる事は理解しているが現実を受け入れられないでいる

ヴ『お母さん…お母さん…イヤだあああああああああ!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る