第14話 膠着

セクンドゥスの声がとても遠いところから聞こえたような気がした。そして、眼前にあった夥しいエラー表示が消失した。


脳圧が高いせいだろうか、依然として頭は割れるように痛い。しかし突き上げるような吐き気や痛みは収まりつつある。どうやら、サキとブルータルスパイダーの間で構築されているダイレクトリンクに、セクンドゥス自身が介入して自身をバイパス化することで通信をフィルタリングしているようだ。それによってK-12による翻訳情報は遮断されてしまったが、一方でブルータルスパイダーからの内分泌系制御への干渉は止んだ。


「あなたの火器管制システムFCSに対する順応は、わたしの予想を遥かに超えていた。結果あなたはFCS最深部へと接続する過程で、自身の内分泌系制御内に精神安定化装置フラジェレーターと同じ機能を構築してしまったのだ。異なるシステムを連結するのに必要な改変を、あなた自身が行えるよう上位権限カーネルレベルアクセスを付与したことが、まさかこんな結果を生じさせるとは。配慮が足りなかったようだ」


セクンドゥスの声がサキの頭蓋の中で反響する度に、サキの精神の中でセクンドゥスの内的イメージが励起されていった。


それは落ち着いた色彩の、異星の大樹のような一本の太い幹、しかしそのシルエットは同時に球状のようにも見える。概念伝達において現実空間で矛盾するイメージが同時に励起されることは珍しい現象ではない。これらがセクンドゥスの神経系なのだろうか。目の前のイメージに手を伸ばし触れてみると、表面には多くのツタが絡みつきあっていて、まるで幾千年も生きてきた老木のようだが、そこに弱さや脆さを感じることは無い。それはかつて死闘を繰り広げたドレドフルキャンサーのパイロットとは全く異なるものだった。むしろその存在はサキに心地よい安心感を与える。心拍も少しずつ安定してきている。


セクンドゥスの概念伝達により、必要最低限の外部情報は認識できるようになった。サキは片手をセクンドゥスの内的イメージに置きながら、再び目の前の戦闘に集中するべく自身の戦術野の各機能をリブートし始めた。


サキのバイタルアラート警報を受信した際、K-12は予め作成してあった緊急対応プランを実行するために軽作業用ドローンを数機放出し、ブルータルスパイダー内部からサキを直接回収しようとした。しかしブルータルスパイダーと情報結合していたK-12´から、自己一貫性を証明する512ビットの動的ハッシュ衝突存在性検査DHCP(Dynamic Hash Collision Proof)の検証結果が共有され、K-12´の整合性がノード間で共有された為、救出シーケンスを停止した。


K-12はブルータルスパイダー/K-12´とのリンクを継続する。念のために隔離していたサキのテレメトリ情報などをサンドボックス環境より解凍し分析した。サキのバイタルが危険域を脱していることを確認。再計算は必要だが、エリシムが策定した現プランでの戦闘を継続する。

K-12´はセクンドゥスのとのリンクを経由してサキのバイタルサインのモニタリングを継続。危機は脱したと言えど、身体の生命兆候バイタルサインは依然として異常値を表している。脳波やシナプスパターンにも乱調が見られた。


セクンドゥスによるブルータルスパイダーの兵器管制制御は継続していた。絶え間なくレールガンから飛翔体を射出し、最後の小隊を追い詰めようとしていたが、決定打にかけていた。高速機動をとる複数の敵機に対して、砲の数が足りていないのだ。


シンとジョウのコルバスもK-12およびブルータルスパイダーを直接支援できる距離まで接近したが、防衛対象を抱えての戦闘では、高機動戦闘をとするテルラヴェス・コルバスが真価を発揮することは難しい。また、敵集団は巧妙に位置取りを行い、シンとジョウの砲軸線にK-12らを重ねるように機動している。同士討ちフレンドリィファイアを避けるために設定された射撃不能領域がかなり広い。

一旦離脱し、態勢を整えようにも敵小隊はその隙を見逃すことなくK-12やブルータルスパイダーに攻撃を集中するだろう。


千日手の様相を呈してはいるが、実際のところは敵の方が優勢だった。恐らく敵の勝利条件は殲滅であって生還はそこに含まれていない。スパイナの慣行からすれば、それは当然の帰結と言える。目標を達成できるならば、相打ちすら厭わないだろう。選択肢が多い分だけ敵集団は有利な状況だった。

敵は回避機動の合間に幾度も砲撃し、K-12およびブルータルスパイダーはさらに数発の命中弾を受ける。防御力場の出力はさらに低下、作動停止までもはや猶予は無い。


エリシム/コルバスも強化された防御力場フォースフィールドで両艦の播種ユニットを懸命に防御しながら、反撃の糸口を見つけようとしていた。しかし不利を覆すには何かがあと一手が足りない。

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