第13話 異常

K-12とブルータルスパイダーは対空戦闘を継続している。


開戦当初から特筆すべき速度で敵機を撃墜してはいたが、その勢いもとうとう鈍化。奇襲より生き残った敵は、機動も攻撃も巧みだった。


敵機の高速機動に対応できない鈍重な両艦において、レールガンの射出速度は命中率に大きな影響を与える。しかし必中を見込める速度で砲弾を射出するには相当量の電力を必要とする。

しかし、コンデンサバンクに大電力を蓄積する猶予を残敵集団は与えてはくれなかった。


実際、残機は僅かな隙をみつけて断続的に砲撃してきており、両艦はすでに数発を被弾。K-12に比べブルータルスパイダーのほうが艦体サイズが大きい分、被弾も多い。艦体が大きい分だけ防御力場フォースフィールドの容量に余裕があるため、辛うじて致命的な損傷を避けられているような状態だ。


どちらにせよフィールドの出力は両艦とも残すところ約二十パーセント。あと数発でフィールドは突破され、艦体は敵の砲撃に直接さらされるだろう。核融合反応による高温プラズマは物理装甲を易々と貫く。


エリシムは、周囲に展開していたアルゴスから送信されくる情報を詳細に検証していた。

緊急回避スラスターの起動タイミング、その反応速度や出力を記録し分析する。そうして得たデータを、アストリア星系で鹵獲した実機のスペックと重ね合わせ、敵機の性能限界を推測しようとしていた。

テルラヴェス・コルバスとは違い、ドレドフルキャンサーは機体の非対称性が強い機体だ。進行方向からみて左右に別々の装備を搭載しているので、機体各部位のバランスに独特の癖がある。エリシムは、ドレドフルキャンサーが特定の機動をする際に、姿勢制御に必要なスラスター噴射が僅かに長くなる傾向を見出した。その事実を即座に情報共有し、攻撃用アルゴリズムを修正する。501小隊とドレドフルキャンサーは慎重に、相手にこちらの意図を気取られぬように、巧妙に砲撃タイミングをずらしていった。


敵機が予測通りの回避運動を行い、その僅かに長く続いた噴射は、次の行動予測範囲を限定させた。攻撃が命中する確率は九十パーセントへと上昇、クールダウンの終わったブルータルスパイダーの砲門が敵の未来予測位置へ砲身を指向させようとした時。


情報結合していたK-12へ、バイタルアラート通知。ブルータルスパイダーに搭乗しているアガワ・サキの生命維持に障害が発生。


アガワ・サキの戦術野には真っ赤なアラートが再現なく大量に表示され、さらにそこにスパイナの文字列が重なっていて判別不能の状態になっていた。


ダイレクトリンク中は身体と精神活動は分離されているが、それでも押し寄せてくる身体感覚や内臓感覚のうち、凄まじい強度の不快感がアガワ・サキの脳を苛んだ。体中の筋肉が強張り、固定した身体に結束ワイヤーが食い込む。船外スーツの中でインナーウェアが吸収分解できないほどの汗が皮膚から噴出し、体温は危険域まで急上昇した。


痙攣している眼球の奥では、戦術野に投影されている高密度戦闘情報と、ブルータルスパイダーの艦内映像が滅茶苦茶な彩度をともないオーバーレイ表示されていた。もはやサキは自分が何を見ているのか、自分の意識がどこに存在するのかすら分からなくなっていた。


身体恒常性ホメオスタシスは危機的状況にあり、心臓は不整脈を頻発し、横隔膜は激しく痙攣、呼吸すらも困難になった。そんな中で腹の奥底から浮かび上がるのは、激しい怒りの感情だった。目に映るあらゆるものに対する憎しみ。自身の精神を焼き焦がして生成される真っ黒な憤怒。


敵味方識別IFF機能不全マルファンクションに陥り、自分が何と闘い、何を撃つべきなのかすら判別がつかなくなっていた。それならば目の前のものを全て消してやればいい。迷う必要なんて無い。ちょうど無防備に推進部をさらけ出している空間戦闘デバイスが二機、視野に入った。他のデバイスとは違い、あれなら容易に落とすことができる。


エラーまみれになった戦術野に対し、砲撃信号をねじ込もうとした寸前。


「すまなかった。私が少しだけそれをうけもとう」

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