剥離たたり百度参り

【最凶スポット】呪われた森の祠に突撃してみた

2025/07/24にライブ配信

　……はい、どうも～！さあ今回は久しぶりの配信ということでね、気合い入れて曰く付きの場所に突撃していこうと思うんですけども。

　今日は午前中からね、関西地方の■■まで来ています。ここの祠はご利益があるとも言われてるんですが、同時に心霊スポットでもあるんですね。さっそく期待も爆上がりだぞってもんです。

　こんな森に来たのは小学生の時の林間学校以来だなあ。カレー作りを火起こしからやらされたんですが、クラスで上手く火をつけられたのは俺だけで。好きな子にも褒められたのが嬉しかったなあ。あっ、すいません。脱線しましたね。

　俺が今いるのが森の入り口なんですが、この道をまっすぐ進んだ先に祠があるそうなんです。じゃあ進んでいきましょうか。

(森の小道が映っている。道の左右には木々がずらりと立ち並び、土には足跡がいくつも残っている)

　意外と足跡がありますねえ。祠を管理してる地元民のものでしょうか？周りの木もけっこう葉が生い茂っていて、日光は葉の隙間から少しだけ漏れ出てるって程度です。なんというか鬱蒼とした森ですね。

(十数分ほど、動画は同じような風景を映し続ける)

　つ、疲れた……ただ歩いてるだけなのに疲れがヤバいです。風景が変わらないからか、単純に日頃の運動不足か。クソ、なんか腹も減ってきたし……あっ、何か見えてきましたよ！

(道の先の少し開けた場所が映る。木板の破片のようなものが土の上に堆積している)

　木製の……何かの残骸ですかね？あっ、もしかしてこれが祠だったんでしょうか。バラバラに壊されていて、原型を留めていない状態です。

　よく見たら破片の中にシャベルが紛れてますね。これで祠を破壊したんでしょうか？しかし誰が？まともな大人がこんな真似をするとは思えませんし、地元の悪ガキあたりの仕業ですかねえ。

(じい、じい、と蝉の声に似たノイズ音が鳴る)(突然、動画の画質が大幅に低下する)(ぼやけた画面に、男性の声が明瞭に響く)

「ほう、よおわかっとるやないか。まともな大人は祠なんぞ壊さんよなあ？」

　……へ。

　今、誰か。ねえ！誰かいるんですか！？あ……？なんだこれ、動画が変……？

「オマエが今言った通りや。オマエはええ歳こいてクソガキと同等の人間。ガキならまだ取り返しがつくが、大人になってそのザマなら救いようが無いわ」

　みなさん！これ聞こえてます！？なんか声が響いてるんですけど、周りに誰もいなくて……クソッ！なんだよ、画面が……

「人生でろくなモンを積み上げてこんかったからオマエみたいにゴミのような大人が出来上がるんや」

　おい！誰だよ！いるんなら出て来いよ！ああ！？なん……文句……か……

(風の音が勢いを増す)(配信者の声が途切れ途切れとなる)(謎の男性の声のみが明瞭)

「役に立たん記憶なら、消されてもかまわんやろ」

　……あ？

【最凶スポット】呪われた森の祠に突撃してみた

2025/07/24にライブ配信

　……はい、どうも～！さあ今回は久しぶりの配信ということでね、気合い入れて曰く付きの場所に突撃していこうと思うんですけども。

　今日は関西地方の■■に来ています。めちゃくちゃ暑いと思ったらもう正午ですね。実は朝から何も食べてないもんだから腹減ってきちゃって。何か買って来ればよかったなあ。俺こういうところが見通し甘くてダメなんだよなあ……

　まあこんな地方の森に来たのは人生初だから仕方ないってことにさせてください。だってコンビニすら無いとか想像つかないでしょ。うーん、行って帰って来るだけだし我慢するか。はあ……

　じゃあ向かっていきましょうか。この先の祠は……

(中略)(道の先の少し開けた場所が映る。木板の破片のようなものが土の上に堆積している)

　何かの残骸が……祠ですかね？もしかして。うわあ、バラバラになってますよ。よくここまで壊しましたね。相当力を込めないとこうは壊れませんよ。

　あっ、なんでわかるかって話ですよね。中学生の時、父とデカい棚を解体したことがあるんです。木製の棚で、大きさもこの祠の元のサイズと同じくらいだったんじゃないかな。

　それを、シャベルをガンガン打ち付けて壊したんです。本当は鋸で解体すべきなんでしょうけど、面倒だから壊しちまえって父が言ったから。

　上手いこと壊せて、父に褒められたのを今でも覚えてます。力をつけたな、男らしくなったなって。嬉しかったなあ。

(ノイズ音が鳴る)(動画の画面がぼやけ、男性の声が響く)

「そうやな、オマエが褒められた思い出は全部親からの褒めばかりや。そうやって甘やかされて育ったからオマエみたいなカスが出来上がったんや」

　……ん？誰……だ？

「せやから他人からの承認が欲しくて配信なんか始めたんやろ。心霊スポットを巡って動画を上げる。空っぽの人間でもできることやな」

　おい、なんだ？誰だ？誰かいるのか！？

「せやけど所詮は空虚な奴のすることや。成果も出せず鳴かず飛ばず。努力もせず、神頼みをするだけ。その結果上手くいかなけりゃ八つ当たりか？」

　おい！誰だよ！どこから喋ってる！？好き勝手なこと言うのはやめろ！

(ごう、と音が鳴る)(配信者が何事か喚いているが、声がマイクに拾われていない)(男性の声が鮮明に聞こえる)

「悪いことをしたら、キッチリ謝らな筋が通らんわな？」

【最凶スポット】呪われた森の祠に突撃してみた

2025/07/24にライブ配信

　……はい、どうも。お久しぶりです。ええと、今日は曰く付きの場所に突撃していくんですが……そろそろ日が落ちる頃だなあ。なんでもっと早く来なかったんだろ。本当に俺はやることなすことダメで、はあ……

　ちょっと今日はコメント欄見れないかもです。関西まで来て動画回しといて何言ってんだって話ですけど、わけもなく気分が落ち込んでて。

　どうせ大してコメント数来ないし……それに誰も肯定的なコメントなんかくれないでしょ。いつもそうだ。俺の人生って、誰にも褒められること無いんだ。人に賞賛されるような行いなんて何もしてないから、当然なんだけど。

　ああ畜生、腹減ったなあ。目が回ってきた。

　……で、なんで食べなきゃいけないんだっけ？ええと……ああ、わかんねえ。わかんねえ。俺は頭が悪いから何もわかんねえんだ。まあ、なんでもいいかあ。進んでいきます。

　何言おうとしたんだっけ……ああ、祠。ここの祠は仕事運上昇のご利益があるって言われてるらしいです。その昔、とある人形師がここに参拝したら、自作の人形が飛ぶように売れたんだとか。いいですねえ、俺にはご利益くれなかったくせに。

　……？今、なんて？

(中略)(道の先の少し開けた場所が映る。木板の破片のようなものが土の上に堆積している)

　あー、祠壊れてますね。ぼろぼろだ。

　ここまで徹底的に物を壊したことなんて俺ありませんよ。何を考えてたらこんな風になるまで破壊できるんですかね。

「なんも考えとらんからやろ」

(男性の声が響く)(じい、とノイズが鳴り、画面が彩度を落とす)

「なんの工夫もできん、なんの努力もできん、そのくせ一丁前に成功を求める。せやから神頼みなんて安易な手段に頼る。そんで成果が出えへんとなれば、自分の不幸の原因を転嫁する。ホンマに下らんわ」

(声に孕む怒気が増していく)(配信者のスマートフォンが落下する)(衝撃で画面が復旧し、配信者の顔がちらりと映る)(ひどく青褪めた表情を浮かべている)

「なあ、今だけ思い出させたるわ。オマエが初めてここに来たんは一年前やったな。人気配信者にしてくださいって願っとったわ。もっともなあ、供え物もせん、願って満足して努力もせん。そんなカスの願いを聞き入れる道理は無いやろ」

(びゅう、と強い風が吹く)(ざわざわと梢がざわめく音が響く)

「願いが叶わんかったからと逆恨みしたオマエは今朝、ここに再び来た。そして」

(地鳴り)(映像がひどく揺れている)

「祠を壊しおったな」

(ばきりという音とともにカメラが破損し、映像が縦に割れる)(画面の端に、顔を引きつらせた配信者が映っている)

　……っるせえな！祠を壊したからってなんだよ！？俺に何した！？俺は何度ここに来させられた！？

　回を追うごとに大事な記憶が消えていって、気分が落ち込んで……俺が俺でなくなる気分になって……あれはなんだ！？

　もういいだろ、早く俺を帰らせろ！こんな猛暑の中で空腹感が限界で……もう死にそうなんだ！なあ！

「百度参り」

(りん、と鈴の音が鳴る)

「知っとるか？百回の参拝を済ませれば願いが叶うっちゅうやつや。帰りたいんなら、百回お参りできたら願いを聞き入れたるで」

　百……おい、待て。たしか、まだ半分も。

「さ、頑張ろか。人生で初めてのデカい頑張り時やで。最後かもしれへんがな」

　待て、頼む待ってくれ。今にも倒れそうなんだ。あと半分以上なんて、耐えきれるわけがないだろう。

(鈴の音と、虫たちの鳴き声が混じり合った音が狂ったように鳴る)(りん、りんりんりんりんりんりんりんりん)

　ごめんなさい、謝るから。頼むから許してくださ

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