君を最後に見た時、僕はただの雨傘だった 1

misaki19999

エピローグ

 レイナの姿を見つけたのは、公園の中にある大樹の下だった。樹齢300年という札を掛けられた、東西南北にその手を狂おしく欲するものに伸ばすように枝が伸び葉が茂り、夕立の雨粒を遮っていた。


 レイナの隣には僕の親友のキヅキがいた。お互い雨に濡れた制服のシャツの裾をしぼりながら、笑い合っていた。やがて2人は見つめ合い、磁石のS極とN極が引き合うようにキスをした。


 その姿を僕は雨傘を持ったまま、見ていた。

 

 心がもう一粒の雫も落ちないくらいキリキリと絞られ、ひどく痛む。僕とレイナは付き合っていたからだ。


 その時、頭上に広がった暗く分厚い雨雲が光った。


 僕はレイナと目が合った。その時のレイナの目は今も忘れない。その目の中にあったのが羞恥だったからだ。自分たちがしたことへの負い目に対する羞恥か、僕自身が羞恥の対象だったのか今もわからない。


 その瞬間、激しい稲光がして、遅れて地面を揺らすほどの轟音がした。雷が大樹に直撃したことにすぐに気付いた。僕は思わずレイナとキヅキを見た。


 2人は折り重なるように倒れ、ピクリとも動かなかった。背中も上下してない。呼吸をしていないのだ。激しい雨がレイナとキヅキの頭から流れる血を洗い流していく。


 僕は体の細胞の動きがすべて停止したように、立ち尽くしていた。まばたきさえ出来なくて、見たくもないレイナとキヅキの変わり果てた姿を、両目で捕らえ続けていた。


 2人は死んだのだ。今、僕の目の前で。


 身動きも出来ずに、僕はいつしか雨を遮る物体と同化してしまっていた。


 君を最後に見た時、僕はただの雨傘だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君を最後に見た時、僕はただの雨傘だった 1 misaki19999 @misaki1999

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画