第11話

 4階、エレベーター前。

 殺人鬼はエレベーターから降りて、通路をうろつく。それぞれの部屋に入って、部屋を見て回っていた。


 山口は携帯を握りしめ、声が出ないように手で口をおおている。

近くのドアが開閉する音、それがだんだんと近づいてくる。

 二つ前、

 一つ前、

 そして、

 この部屋に。

 ドアが開く音がした。

 殺人鬼は部屋の様子をうかがう。山口が隠れている机の近くを通った。

山口には殺人鬼の足が見えていてた。

 早く行って。

 早く行って。

 早く行って。

 早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く。

 殺人鬼は山口に気づかずに、部屋から出ようとドアノブに手をかけた。

 早く。

 携帯の着信音。野口さんという表示。

「うそ」

 もう少しだったのに。

 山口の口から絶望の声が漏れ出ていた。

 こうなったら、隠れていてもしょうかないと山口は意を決して立ち上がった。

 怖い。

 殺人鬼が山口を見ている。

 怖い。

 殺人鬼は一歩、二歩と近づいてくる。

 来ないで。

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