2話 境界線の向こう
「...なんで!なんでまたここにくるんだ!」
いつも通っているはずの山道でもう何分、何十分迷っているだろう。
山道に入ったらすぐに分かれ道があるから、右に行く。そのままずっとまっすぐ歩いたら森を抜けるはずなんだけど...
何故か右に行ったらまた分かれ道のところまで戻ってきてしまう。まるで森に閉じ込められたみたい...
そう考えると急に寒気が襲ってくる。じっちゃんが入るなって言ってたのに...
俺は今更後悔する。
ドサッ
次の瞬間後ろから音がする。それはまるで大きな生きモノが歩いた音のように聞こえた。
俺は首が錆びついたかのようにゆっくりと後ろを向く。
みるな!みたらダメだ!脳が命令を出すのに、体が言うことを聞かなかった。
そこには俺の3倍はある大きさのナニカが
「や、やめろ!喰うなぁ!!」
俺は必死になって叫ぶ。田舎生まれ田舎育ちの俺は"熊が"現れたら大きな音を出せとじっちゃんに耳にタコができるほど言い聞かされた。
俺が腕をぶん回しながら叫んでいると、大きな"熊"はしゃがんで衝撃的なことをした。
「キミ、だいじょうぶ。」
なんと口を器用に動かしてしゃべったのだ。
「く、熊がしゃべった!?」
俺が仰天して叫ぶと、熊は首をゆっくり横にふる。
「くま、違う。おいら、オボロヅキ。」
「オボロヅキ...?」
どっかで聞いたことある気が...
俺はオボロヅキを観察する。
おおきな白い体は3mくらい。顔の大きな1つの目がついており、うさぎのような大きな耳が目を惹いた。
「きみ、なんていう?」
オボロヅキは首を傾げて不思議そうに聞いてくる。鶴彦と名乗るとオボロヅキは嬉しそうに何度も俺の名前を呼んだ。
「つるひこ!つるひこ...きれいな名前。なんでつるひこ、ここ、きた?」
「えっと...学校にいくために」
そこで俺は学校に行く途中だったことを思い出す。今すぐに行かなきゃ遅刻しちゃう...!
「オボロヅキ!俺この森から出たいんだけど、どうしたらいいかな?」
俺が問うとオボロヅキは急に顔を曇らせた。
「じつは、つるひこ、ここから出れない。」
「ど、どうして出られないんだ!?俺今すぐにでも学校に行かなきゃなのに...!!」
「じかんは、大丈夫。今ここはゆっくり、すすんでるから。この森、あんぜん。そしてきけん。」
時間がゆっくり進んでるだって!?一体全体どういうことなんだ...?
そこで不意にじっちゃんの顔が脳裏に映る。
『悪い気が溜まっておる』
「も、もしかして...君は怪物朧月?」
俺が問うとオボロヅキは一瞬悲しそうな顔をした。次の瞬間、視界が真っ白になった。
聖なる怪物の貴方へ 綴否-Tsuduri.ina- @techina
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