胡乱な夏と幽霊少女
葉月めまい|本格ミステリ&頭脳戦
01.身に覚えがない罪について身に覚えがないと確信できるのは、きっと幸福なことである。
俺は断じて、
そりゃあ、二次元の
だが、まったく心当たりがなくとも、例えば罪の証拠になりうる凶器が自分の手に握られていたりなどしたら、罪悪感を抱いてしまうのも無理はないというか、その罪悪感はある種の錯覚であって罪の自認ではなく、むしろ理性によって認識している自分自身と感覚で認識する自分自身に差異が生じているからこその動揺の
要するに、何を言いたいのかと言えば――。
俺は、「やっちまった」と思ってしまったのである。
自分の部屋で目覚め、借りてきた猫みたいな様子で隅っこにちょこんと座る、絵本の中の
……なんて、ズキズキ痛む頭の中で懺悔してしまう。
だが、そのちっこい少女が真顔で、あんまりにも無警戒に俺の顔をじーっと穴が開くほど見つめてくるもんだから、だんだん俺の
そんな風に見つめられて本当に穴が開いちまったらどうするんだと思ったが、まあ人間の顔には始めから耳も鼻も口も目ん玉もあって穴だらけだから、考えてみれば、考えるまでもなくどうでもいいことだ。
例えば、こんなシナリオはどうだろう?
俺は昨晩、
もしかしたら、彼女は金のない家出少女か何かで、正常な判断能力を失っていた酔っ払いの俺は、頼み込まれるがままに部屋へ上げてしまったんじゃないだろうか?
この子に手を出してしまったとは、まだ限らない。
さて、こうして仮説を立てたからには、次にすべきはその検証、すなわち、少女に話しかけて真実を確かめる必要があるわけなのだが、自室にいつの間にか出現した
すると、そんな俺を見かねたように――いや、実際のところは見かねたんじゃなくて、もはや見飽きたのかもしれないが、まあどちらだとしても同じことだろう――少女の
「……もしかして、見えてるんですか?」
俺は返答に困った。
実際に見えているのかどうかは親愛なる読者諸氏の想像にお任せしたいが、仮に見えていなかったとしても、「見えていますか?」なんて聞かれてしまったからには、もしかしたら見えているんじゃないかと思ってしまうし、もちろん
「見えてないよ」
と、俺は答えた。
見えていたとしても、わざわざ恥をかかせる必要はないだろう、という俺流の親切で紳士的な判断である。
「見えてないんですか……」
と少女は、どこか落胆したような声で呟き、
「えっ? でも今、私に返事しましたよね……? 姿は見えてないけど……、声は聞こえてるんですか?」
俺も鈍感な人間ではない。この辺りでようやく、どうやら会話が噛み合っていないみたいだぞと思い至り、ついでに少女の身体がどことなく半透明であることにも気づいた。彼女が見えているか見えていないか気にしていたのは、可愛らしいリボン付きの真っ白なパンティのことではなかったらしい。
ともかく、これが俺と幽霊少女の出逢いだった。
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