第14話 狂気のプラ
姉ちゃん。
俺たち、どこへ行くの?
子供のころから、私は地面を見ることも、川辺を見ることも怖かったのです。
ときどき、家の中でも、芝生の上でもゴキブリを見かけました。
その虫たちの中で、いくつかは強く記憶に残っています。
じっと見つめていると、ある瞬間、
その背中を突き破って小さな虫が頭を出しました。
その虫は触角をぐるぐる回して首を左右に振り、
大きな黒い目で私を見ました。
そしてゴキブリから完全に抜け出すと、遠くへ飛んでいったのです。
川や池では、ときどき虫の死骸がぷかぷか浮いていることがありました。
その死体から、細くて黒いミミズのような、別の虫が飛び出しました。
子供のころ、故郷にはそういう虫がたくさんいました。
私はそういうものが嫌で、怖くて仕方がなかったのです。
そういう虫の存在を知る前に、ある日、
私は自分の人生を丸ごと支配する事実を知りました。
私には母がいません。
姉も父もその理由を教えてくれませんでした。
そんなある日、祖父が私に母がいない理由を話してくれたのです。
祖父はよい人ではありませんでした。
父はいつも祖父を避けていました。
村の人々はみんな祖父を悪く言いました。
嫌われ者の人間だったのです。
だから私にそのことを話したのでしょう。
誰かを傷つけたくてたまらない人間だったのです。
母は、私を産むときに出血がひどくて死んだのだそうです。
それが本当かどうか、姉にも父にも聞きましたが、
二人とも否定はしませんでした
私は母が死んだ理由が自分のせいなのだと知り、あの虫たちを思い出しました。
大きな虫を殺して、その中から出てくる小さな虫が、私と重なって見えて、怖かったのです。
父は普段から口数が少ない人でした。
姉は、私が苦しんでいるとき、いつもそばで慰めてくれました。
「あなたが母を殺したのではない。
世の中にはどうしても誰かを失うことがあるのだ。
あなたに悪意なんてなかったのだ」
そう言って、私を慰めてくれました。
姉がそう言ってくれるときだけ、私は恐怖から解放されました。
でもその時間が終わり、姉が学校へ行き、父が部屋にこもり、
家には時計の針の音だけが響くとき、恐怖はまた戻ってきました。
私は母を殺していないのに。確かにそうなのに。
毎晩、顔すら覚えていない母の体を突き破って、血だらけで出てくる夢を見ました。
私は、なぜあんなに苦しかったのでしょうか。
姉の言葉が正しいのに、なぜあんな考えをしてしまったのでしょうか。
今も頭では姉の言葉が正しいと分かっているのに、
ずっと、ずっと胸が締めつけられて、
聞いたこともない母の声や泣き声が聞こえてくるのです。
その恐ろしい感覚が、今までの私を動かしてきました。
その気持ちを押し込めるために、私は残された家族を守りたいと思いました。
残った人たちだけでも生かさなければと考えたのです
頭ではそれが間違いだと分かっています。姉の言葉が正しいとも分かっています。
それでも、姉と父は安全な生活を続けられました。
本当に安全な暮らしだったのか、それとも傷が広がって膿んでいったのかは分かりません。
でも、その傷ごと消せると信じていました
私ができることなんて、そんなことしかなかったのです
私の頭の中は誰にも知られたくありません。
特に姉には、私のすべてを忘れてほしい。
全部やり直さなければいけないのに、
母さん、私、どうしたらいいのですか
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます