第7話 スイスゾンビ 4

巨大な怪物が三人を狙っている。

警官が銃を抜いた。

怪物は頭を九十度傾けた。

そして警官の首と頭を鋏のように切り離した。


怪物は警官の頭を呑み込み、残った胴体を何度も踏み潰して粉砕した。

その後、そいつはアンネビネとプラを見据えた。


アンネビネは気を失っていた。

プラはまだ意識が残っていた。


怪物はプラに近づいていく。

口からは血を吐くように吹き出していた(警官たちの血だ)。

全身の筋肉を蠢かせながら、怪物はプラに向かって腕を伸ばした。


その瞬間、何かが飛来し、怪物の鎖骨と肩を貫いた。

怪物は驚いて後退した。


アンネビネがプラの手を掴み、「跳躍」を行った。

高みにある太い枝にぶら下がった。

アンネビネは先にその太枝の上に登り、休息を取った。

プラは枝に掴まったまま耐えていた。


「……さっきのは、一体何だったんですか……?」

プラがアンネビネに問う。

「……それ……だなんて……」

「……」

「………」

「……とりあえず、このまま木の上にいる方が安全かしら……」


怪物たちの体は人間に似ていた。

枝の少ない高木を登るのには適していなかった。


アンネビネは出血を続けていた。

プラも手から血を流し続けていた。

手の皮膚はずたずたに裂け、血管や骨が所々露出していた。

その手で枝にしがみつき、必死に耐えていた。


プラがその事実に気付くまでには、かなりの時間がかかった。

今、プラはこう考えていた。

『自分に起きている非現実的で有益なことはホルノ氏の能力のおかげであり、

自分に起きている非現実的で有害なことはこの森の呪いのせいだ。』


「ホルノさん……これは一体……」

「待って」


アンネビネがプラの言葉を遮った。

彼女にはまだ回復のための時間が必要だった。

いや、“回復”という表現が正しいのかどうか。


数分後、アンネビネは口を開いた。

「……麻酔を……かけたのよ……」

「麻酔……ですか?」

「きみの頭を強い風で撫でて……薄く切り裂くようにするって言えばいいのかしら……そうすれば他の部位の痛みを感じなくなる……」


「あなたの力の出所を詮索するつもりはありませんが……ただ空気、風を操るだけで、そんな超常的なことが可能だというのは……私には理解できません……」

「私自身も、まだきちんとは理解できていないの……この技は墜落の後に得た力だから……」

「墜落……本拠を見つかった後、ということですか……」

「それ以上は秘密」

「……」


「きみが痛みを感じないだけで……実際の身体はほとんど再起不能のはずよ……それでも木にぶら下がっているそのフィジカルは、私の技と同じくらい不思議だけど……」

「え……?」

「今は痛みを感じていないだけで、実際はいつ落ちて死んでもおかしくないのよ……解決策は思い付かないし……そもそも私は体力が尽きかけてる……」

「……あ……あ……」


その時、何者かの視線を感じた。

複数の存在が二人を狙っているのが分かった。


チッ……チッ……

コウモリの鳴き声のような音。

ウウゥォォォ……

病んだ老人のうめき声のような音。


その二つの音が同時に響き始めた。

アンネビネは目を見開き、周囲を警戒した。


隣の木の枝に、何かが乗っていた。

複数の何かが。


それは地上の怪物たちとは異なる姿だった。

顔は口元に大きな裂け傷を負った人間のようで、胴体はトカゲのような鱗で覆われたコウモリのように見えた。


唸り声を上げ、涎を垂らしながら二人を睨みつけていた。

一匹が翼を広げた。

二匹が翼を広げた。

五匹が翼を広げた。


五匹の飛翔する獣がプラに向かって飛びかかった。

プラの脚を体当たりで打ちつけ、体を噛み付いた。

プラの身体が揺さぶられる。


そしてついに、プラは枝から手を離した。

それがプラの肉体の限界だった。



























To Be Continued....

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