遣らずの雨
菜月 夕
第1話
急な夕立で周りも良く見えないくらいだ。
あそこの軒先を借りよう。先人がいるようだがこのさい我慢して貰おう。
「済みません。軒先を一緒に相席させてください」軒先に先に居たのは女性だった。
「いいえ。こういう時はお互い様です。あ、もしかしたら野崎先輩じゃありませんか」
そう言われて見直すと大学のクラブで後輩の島崎さんだ。すっかり化粧や服装も社会人になって見違えたけれど、あの頃の面影もある。
雨音が激しくなる中、二人はあの頃の話しで少し盛り上がっていた。
そんな中、彼女は少し震えている。雨で濡れて冷えてしまっているようだ。
「あの、先輩。先輩も濡れてしまってますよね。どうせならここに入ってしまいませんか」
そう、彼女に言われて良く見ると借りた軒先はラブホの玄関だった。
「おかしな意味じゃないですよ。ここは女子会でも良く使ったところで洗濯機や乾燥機も揃ってるところなんですよ。
クラブでもみんなで雑魚寝をした事もあったじゃないですか。それとも先輩、私を襲います?」
私はあの頃憧れだった先輩と再会したこの夕立に感謝して、先輩を丸め込もうとまくしたてた。
先輩は流石にラブホは、とか言いそうだったけれどこの機会を逃したらダメな気がする。
「良く知ったとこだけど、流石に一人では入りづらかったんです」
やがて二人ともバスローブ姿になってあの頃の事を話し始めた。
「あの皆で雑魚寝する目になった時も急な雨でしたね。
用意してた女子のテントは設営が悪かったせいか強風を伴った雨でダメになってしまい、先輩が皆に指示して一つのテントで夜通し騒いだんでしたね。
実は先輩に私は謝らなければならないかも知れません。
私、実は雨女でイベントがあると雨が降るのであのイベントは休むつもりだったんですけど強引に誘われちゃって」
でも私は雨女な事に感謝しなければいけない。こんな風に先輩に再会出来るなんて。
「雨、やみませんね。服はもうすぐ乾くけど延長させたそうな。まるで遣らずの雨ですね」
「先輩。もしかして結婚とか交際してる女性っていますか」
私はもう少しこの雨の中もっと先輩と近づきたいと考えていた。
雨は未だ降り続いていた。
遣らずの雨 菜月 夕 @kaicho_oba
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