第6話 最後の一擲まで

「敵艦ミサイル発射!総数26!到達まで80秒!」


沈みかけのノルマンディーが、死力を振り絞って撃ってきた。リヴァイアサン砲雷科長の中本は、指示を出す。


「総員戦闘配置につけ!対空戦闘、よーい!」

「迎撃ミサイル21番から44番発射よーいよし!」


たりない。そう。たりないのだ。敵は26発のミサイル。対するこちら側は24発の迎撃ミサイルしか残っていない。


「目標よし!」

「ってー!」


撃ってしまった。次の補給がいつかわからないのに。対空攻撃から守る手段はもうCIWSだけ。

中本の背中は汗でびしょ濡れである。と言うより、CICの面々は皆その事実に気がついているので、同じ状況だ。


「敵ミサイルと接触!」

「残り4発!2発逸れた!」


「CIWSよーい!」


さっき撃ち漏らしたのは2発だった。今度は4発。防ぎ切れるか。





特殊潜航艇「はやぶさ」操縦士の橋本は、無言で修理の終わっていないはやぶさに飛び込んだ。


「ねぇ、なんで?今海に出たらまた浸水するよ?大体何しにいくのさ」


追いかけてきた総務士の尾形が訊いてきた。自分でもわかんねぇ。


「わからん。でも今ははやぶさが浮上すべきだと、思う。」

「浮上なら…。」


さっきの偵察で受けた損傷は深く、長時間潜航していると水圧に耐えられず浸水してしまう。まだ修理は終わっていないが、浮上なら最小限の浸水で済むはずだ。尾形が入ってきて、右席に座った。


「こちらはやぶさ。放出用意完了です。」

「えっ?」


セイレーン航海長の安達が返事を返してくれなかった。何も告げていないので当然ではある。


「急げ!発令所の許可なしでいいから、自力離艦だ!」


自力離艦とは、セイレーンが万一沈んだりした際に、はやぶさだけが脱出できるようにする仕組みである。発令所の許可なく収用ベイを開いて海に出ることができる。


「わかった。こちら、はやぶさ。自力離艦しますよ。」

「はっ?」


安達は混乱しているようだが、仕方がない。自分たちでもなんで行くのかよくわかっていない。


2分後、海面に浮上したはやぶさの中で、カメラで外周を確認していた尾形が、声を上げた。


「うわっ。迎撃ミサイルだ!」

「リヴァイアサンが攻撃されてる…?」


ノルマンディーは沈んだはずである。沈みかけの状態で最後の足掻きか。それに対してリヴァイアサンが迎撃をしている、と。


「何発?」

「わかるかよ」


音速で飛んでいくミサイルの本数は目視ではわからないだろう。なんとなく訊いてみたが、尾形の答えはけんもほろろだ。


「あ。撃墜した。火炎が見える。」

「そうか。」


俺たちは何をしにきたんだろう。帰ったらお目玉を喰らうだろうが、全く意味がわからない。ただ、はやぶさを発進させないといけないという思いがあった。


「いや、来るよ!撃ち漏らしてる!」

「何発だ?」


「だから分かるかよ…いや、4発だ…」

「4発…」


リヴァイアサンのCIWSでは4発のミサイルに対応できるだろうか。ここで俺は閃いた。


「尾形!機銃展開!CIWSの援護!」

「!」


さすが尾形である。多くを語らずとも意図を察した。俺たちはこのために来たのだ。


「まもなく射程!」

「攻撃はじめ!」


射撃に集中する尾形の代わりにカメラで監視をする。全く当たっていない。


「もっと前!相手は音速だぞ!」

「わかった!」


火炎ができた。4つ。

全てを撃破した。そのうちいくつが自分たちの戦果かわからないが、とにかく、リヴァイアサンは無傷だ。


「ナイス。」

「ありがと。」


「帰るか。」

「そだね。」




当然セイレーンに帰還後、航海長の安達やら砲雷長やらに怒られたが、(後付けの)理由を話したら怪しみつつも納得してくれた。



「これにて一件落着、と。」


そう呟いたが、誰も聞いていない。






「はやぶさには助けられたな。」

「おう。」


リヴァイアサン砲雷長の中本と航海長の飯田は艦橋で話していた。あの後、映像を分析したところ、CIWSが撃ち落としたのは4発中1発だった。


残りの3発は、明らかに違う角度からの迎撃だった。セイレーンからはやぶさの好判断(安達曰く、暴走)の報告を聞いて、ようやく正体がわかった。


「とりあえず、補給科に言ってすぐにミサイルを埋め合わせないと。」

「頼むわ。」


異なる小隊同士では敬語を使うのがルールのファントムクラブだが、この2人は生まれて以来の親友である。


艦内放送がかかった。


「こちらは通信科です。不明な電波を受信しました。」



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次で第二章は終了です。次回、「依頼者の真意」

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