第1話 簡単な任務

リヴァイアサンの砲雷長の中本典雄は、震える声を誤魔化しながら指示を出した。


「全兵装安全装置解除、総員戦闘配置につけ!」


艦内が騒がしくなるのを感じた中本は戦闘指揮所(CIC)でモニターを見つめる砲雷科の仲間とレーダー班の面々を見回して心を落ち着けた。


「目標は0時の方向、距離120!速度40で北上中!トマホーク対艦ミサイル8発、発射用意!」

「目標よし!」

「甲板の安全確認よし!」

「安全装置よし!」

「座標設定よし!」


「ってー!」


中本の号令で、リヴァイアサンの後部甲板から8つの白煙が上がり、前方へと飛んでいった。自衛隊と同じく、中本たちも「う」を発音しないことにしていた。


砲雷科の中本も、航海科の飯田と同じくこの作戦に疑問を持っていた。


いくら運用しているのが途上国の武装組織でも、イージスシステムを搭載したアメリカの軍艦を相手としているのだ。


なのに撹乱もなくいきなり攻撃したところで迎撃されておしまいだ。

しかもこっちは追加のミサイルがないということになる。


レーダー画面上に映る敵影とそこめがけて直進する8つの輝点を目で追っていた中本は、CIC中に響く声で叫んだ。


「目標が迎撃ミサイル発射!8発!」


艦内がどよめいた。リヴァイアサンもイージスシステムを持つ軍艦だから、相手が自分たちと同じように適切な手順を踏んで迎撃してきたことに驚きを隠せなかった。




「ミサイル8発、撃墜されました…」


レーダー科の隊員が憔悴したようにそう報告した。


「まだだ。今ので我々の存在がバレた。反撃されるぞ!対空警戒を厳となせ!」

「対空戦闘、よーい!」


艦船を撃沈する手段はもうないが、リヴァイアサンにも対空兵器は揃っている。訓練通りにやれば迎撃できるはずだ。


「目標がミサイル発射!総数30発!本艦まで120秒!」

「電磁妨害よーい、はじめ」


ミサイル攻撃を察知してすぐ、中本はまずはミサイルのロックオンを外すために電磁攻撃を行なった。


精密に誘導されるミサイルは電磁攻撃に弱い。荒れ狂う海の上で、爆進していたミサイルのうち一部が隣にそれて衝突したり、突然海に突っ込んだりしていく。例えるならば受験に向けて猛勉強していた学生が8月ぐらいにゲームセンターに飛び込んでいくようなものだ。


中本がそんなことを考えていると、ミサイル群はすでに電磁妨害が効く範囲を過ぎていた。


「電磁妨害終了!残り20発!」

「SM2対空ミサイル、1番から20番発射よーい!」

「目標よし!」

「ってー!」


今度はリヴァイアサンの前方甲板から煙が吹き出し、小型の対空ミサイルが飛んでいった。





「頼むぞ…」


艦橋からその様子を見ていた航海長の飯田は、そう祈った。


「CICより艦橋へ。念の為に之字航行をしてください。」

「艦橋、了解しました」


スピーカーからは親友で砲雷長の中本の指示が飛んできた。之字航行とは、主に魚雷を避けるために行われる軍艦の蛇行航行なのだが、ミサイルに対しても同様の対処をしろと言う指示だった。高速でやってくるミサイルを避けるのに効果は薄いが、0ではない。





CICでは必死の形相で迎撃作業を行う隊員たちの姿が見える。


「SM2、間も無く敵ミサイルと接触します!」

「全弾撃破!!」


「まてっ!2発残ってるぞ!」

「敵ミサイル2発、本艦まで40秒!」


本来のイージス艦であればここから主砲による迎撃が行われるが、リヴァイアサンは主砲を搭載していない。中本は歯を食いしばって対処の指示を出した。


「CIWS用意!射程内の入ったらすぐに攻撃しろ!」

「応急科にも連絡して待機させろ!」

「医務室の準備は!」

「すでに完了しています!いつでも着弾OKです!」

「馬鹿野郎!まだ諦めんな!」






艦橋の飯田には、天気が悪い今日でも正面から向かってくるミサイルが目に見えていた。


「CIWS攻撃はじめ!」


最終防衛装置、CIWSの出番だ。接近してくる敵のミサイルに対して自動で大量の銃撃を浴びせる、いわゆる弾幕だ。


「1発撃破!」

「もう1発、向かってくるぞ!」


中本の全艦放送が聞こえる。


「ミサイル飛来、総員衝撃に備え!」




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次回、クソみたいな作戦の理由がちょっとだけ暴かれます。ちょっと短め。

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