第2章 イージス撃沈
プロローグ イージス撃沈
「現場海域まで30分、現場は風速17m毎秒の大時化や。」
報告を受けたリヴァイアサン航海長の飯田武史は、予測できない未来に思いを馳せているところだった。
ファントムクラブには四つの戦闘部隊がある。
4つの小隊からなる陸上戦闘部隊、母艦リヴァイアサンを運用する海上戦闘部隊、潜水艦セイレーンを運用する潜水戦闘部隊、補給や作戦研究、諜報などを行う主計戦闘部隊だ。
ファントムクラブに階級はほぼなく、あるのは任期制の小隊長とか班長ぐらい。全体を統括する司令官もいない。
その代わり、小隊の違うものは年齢や経験に関わらず、リスペクトを持ち敬語を使うように徹底されている。俺は航海科の人間なので機関科の人間に対しては敬語を使う。
なんで設立されたのか、誰が予算を付けているのか。みんな察しているが誰も話題にしないから、ここで俺が説明しよう。
ときは2027年、日本では前年から政権を握った新規政党が独自路線を突き進み、国内情勢がガタガタになった。都合のいい傀儡として使いにくくなったと感じたアメリカのハワード大統領は、後援者のファン・ヒューズ氏の提案で民兵組織を作り、アメリカの代弁者として日本の現状を変えることにした。
例えば日本で反米感情が湧き出たらその出処を秘密裏に処理する、などが想定されている。
他にも日本政府が世論を気にしていつまでも解決できない問題を、正体不明の武装勢力として無理やり解決することも考えられる。これは実際に先週の我々の初任務、尖閣奪還作戦で現実となったが。
ヒューズ氏が会長を務める世界的大企業グループPWE(パン・ワールド・エコノミー)が資金源として強力な支援をしている以上、我々は日本だけでなくアメリカの国内問題も秘密裏に解決する。
例えばデマ(とされる、実際にはホワイトハウスのスキャンダル)を報道しようととした新聞社をテロを装って襲撃して資料を隠滅するーこれは実際に大統領が例示したことだがーそんなことが予想される。
2027年4月、先週の尖閣諸島奪還作戦を終えたファントムクラブは日本を離れ南太平洋にて訓練した後、PWEの輸送船から補給を受けた。この辺りは陸地がなく、他国の海軍が皆無な地域なので我々のような存在が非合法な組織が拠点を置くのに適している。
そして4月なので南半球の当地は秋である。
ところで、補給の際にホワイトハウスからPWE経由で届けられた命令書が今朝開封された。
内容はコレだ。
2日前、南極調査船の護衛から単独でアメリカに帰投途中だった米海軍のイージス艦ノルマンディーとの連絡が途絶えた。
今朝ホワイトハウスに入った情報によるとどうやら武装勢力によって制圧され、乗員は全員殺された。
しかし付近に移動可能な米艦隊はなく、ファントムクラブが最も迅速に行動可能である。
したがってアメリカのイージス艦がテロ組織に奪われることのないよう、当該海域に急行し、72時間以内にこれを撃沈せよ。
乗員が全員殺された以上、奪還は不可能と判断したのだろうか。
海上戦闘部隊にとってはほぼ初めての実戦と言ってもいい。尖閣奪還作戦では航空科の連中がオスプレイを展開しただけで、こっちは普通に操艦していたらすでに終わっていた。
むしろ、軍艦の撃沈などウチにしかできない。前回も他のみんなはうまくやったんだ。絶対に成功させてやる。
「レーダーコンタクト、識別番号不明。おそらくサブジェクト(目標)」
レーダー科から全艦放送がかかる。
「速力20に減速、波の監視を続けよ」
そう指示を出し、攻撃方法を考える。
航海科の俺にとって攻撃方法の検討は担当外だ。一応作戦担当者からの通達ではトマホークミサイルを8発撃つらしい。
ところがコレには問題がある。リヴァイアサンに搭載されているトマホークミサイルも8発なのだ。つまり失敗すれば次の手は打てない。
だが、南米のテロ組織ぐらい、恐るるに足らず。作戦担当者は今回の任務をそう楽観視しているようだが、俺はそうでもない。
世界一の軍隊である米軍艦を乗っ取った奴らだ。その力を甘く見ては痛い目に遭う。
しかし初任務の尖閣奪還作戦を大成功させた作戦担当者は聞く耳を持たなかった。
彼らはが言うには彼らにイージス艦を運用する能力はないらしい。
しかし、やはり俺は俺の仕事をするべきだ。作戦を考えるのは俺の仕事ではない。ミサイルを撃つなら撃ちやすいように波の動揺を抑える操艦をする。これが俺の仕事。
しかし、リヴァイアサン全体的に楽観視されている今回の任務は、俺の予想通りに想定外の連続となった。
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第二章始まります。次回は圧巻の空中戦です。
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