第3話 貨物船マルビナスの船長視点
荒海八潮は外洋コンテナ船「マルビナス」の船長としてケープタウンから東京までの航海を進めていた。
現在は高知県沖を東に向けて順調に進んでいる。ここまでくれば、東南アジアに蔓延る海賊はいないし、いたとしても1時間で海上保安庁がやってくる。
船員たちは荒海と航海長の山井を除いて全員がフィリピン人。山井は先週から腹を下して医務室にいるのでもうずっと日本語を使っていない。
「左後ろのずっと遠くに小型の漁船がいます。」
「後ろなら大丈夫だから。ゆったり行こうぜ。東京に近付いたらもっと気を張らなくちゃならないんだ。」
はっきり言って沖縄から伊豆諸島に至るまでは何も気にしなくていい楽な道だ。山井が元気だったらさらに楽だった。
「手を上げろ!」
突然操舵室に男が5人、入ってきた。海賊だとわかり、咄嗟に全員が手を上げ、無抵抗の意思を示す。この船は先月もソマリア沖で襲われたばっかりだ!嫌になるが、全員が対処方法を覚えている。とりあえず海上保安庁への通報ボタンも押した。
「全員をここに集めて。」
「…はい。」
海賊というのは、3種類に分けられる。
先月やって来たのは武力で脅して船員の持ち物を奪っていくやつ。これは個人的には痛手だが、海賊の中では一番ありがたい。
嫌なのはコンテナの中身を持っていく奴らだ。船長として持ち主に説明が必要だし、身体的に痛い思いをすることも多い。
最悪なのは、船ごと奪ってどっかにいく奴らだ。何が最悪かというと、ほぼ確実に殺される。幸いにも遭遇したことはないが、今日のやつを見ると、どうも怪しい。
大体海賊ってのは貧しいから仕方なくなるものだ。武装しても小銃やピストルが精一杯。なのに今日のこいつらは特殊部隊かのような装備を身につけ、キビキビと動いている。後ろにはスティンガーミサイルも背負っている。国際的な犯罪組織ってやつだろう。自分の財布の数万円で満足するはずがない。
「全員そこに並んでください。手を縛って目と耳を塞ぎます。」
はい、終わった。絶対に並んだ後に順番に射殺される。
「これで全員?」
「医務室に航海長と看護師が…」
「おい、監視に行ってやれ」
ここで違和感を感じた。普通なら連れてこいとか、キレるところだ。なのにそっちにもわざわざ監視の人をやるとはどういうことだ?
病人だから配慮したのか。そんな配慮ができるなら海賊なんてするな。
「申し訳ないがしばらくここにいてください。」
耳に何かを詰められ、タオルを頭に巻かれたせいでなにも見えないし聞こえない状態だが、ここで気付いた。こいつら、日本人だ。しかもずっと敬語で話している。
どういうことだ?
日本人が海賊?
倭寇ってやつか?
現代にあり得ねえ。
できることもないので死ぬ前に色々考えてみる。
ところが、しばらくして拘束が解かれた。
「迷惑をかけた。誰にも危害は加えてないが、コンテナを一ついただいていく。」
男はそう言って慌てたように操舵室を出て行った。
まだ縛られたままの船員たちが25人、転がっている。上空からは海上保安庁のヘリだろう、停船を呼びかける声が聞こえてくる。
呆然と突っ立っていると外で爆発音がして、大きな何かが海に落ちる水音がした。
正気に戻って船の機関を停止したところで、俺は再び意識を失った。
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次は襲撃した方の第二小隊長視点です。
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