第2話 回収と報告
4:55分。電源を入れ直し、迎えにいく準備をする。島を数周した2隻の潜水艦は4:00過ぎに西に消えた。
「再起動完了。深度45から一気に浮上、深度3まで行ったら周囲の確認。」
「当地の薄明時刻は5:43。制限時間43分で回収するよ。」
総務士の尾形と手順を確認して回収に向かう。
「深度3、周囲確認!」
「右舷ヨシ、左舷の漁船3隻は未だ動きなし、回収作業に支障なし!、船着場に数人の人影を確認!」
カメラを下げて島に近づく。
「約束の時間まで20秒、10秒…」
「浮上、なう!」
「ハッチ開放!」
「ただいま戻りました」
1人の裸の男を背負って入って来たのは第二班長の梅村だった。
「報告願います」
「任務完了、敵は5名で1人は死亡。こいつです。当方の被害は軽傷を負ったもの3名、重症者死者はおりません。」
「お疲れ様です。さすがです。」
後ろでは続々と小隊のメンバーが入ってくる。途中で気を失った敵らしき男も連れられてくる。驚いたことに、敵の1人は女だった。流石に布切れがまいてあるが、怪我をしたらしく腹のあたりがどす黒くなっている。
「全員入りました。」
「ハッチ閉じよし、急速潜航よし!」
はやぶさは一気に潜り、魚釣島を後にする。
「どんな感じでした?」
尾形が尋ねた。
「あいつら、何してたと思います?」
「キャンプとかですか?」
石田が逆に訊くと、尾形はボケた。場の空気がフッと緩んだ。
「島を掘ってたんだよ。」
「掘ってた?」
「山にトンネルとか掘って要塞化してたんです。設計図を回収しましたけど、完成してたらほぼほぼ攻略は不可能でした。」
「えーっ、じゃ、タイミングはギリギリだったんですか。」
「まあ、あっちも人数が少ないから作業はあんまり進んでなさそうでしたけどね。監視に回ったり食料を調達したり、やることが多すぎな割には人が少なすぎましたね。」
「あんまり多いと海上保安庁の巡視でばれますもんね。」
「そうなんです。日本政府が上陸を制限してる状況では勝手に要塞化されても誰も気付けない。だから時間がかかっても外からバレないようにやってたんでしょうね。
「でも特戦群が壊滅って、強かったですよね?」
尾形が言うのは先週、政府が秘密裏に投入した陸上自衛隊の特殊部隊だ。制圧に失敗し全員が死亡したことが発覚し、日本ではすわ政権交代かと騒いでいる。国会の審議を得ずに部隊を送ったことが問題だそうだ。
「いや、今では上陸して2週間でしょう。疲れが溜まってるのか誰にも夜警に立ってないし島に散らばって全員寝てましたからね。本当に他にいないのか探しましたけど置いてある荷物の数とも一致しました。それに、中国語で書かれた作戦概要も回収しましたから。」
「作戦ってなんだったんですか?」
「さっき島を要塞化してたって言ったと思うんですけど、それを今後、好きな時に使えるようにってことですよ。」
「つまり今回の上陸は本当に秘密の作戦だったんですね。」
「おそらくは。でも作戦書には『万が一日本側に上陸を察知されても、日本政府は憲法に書かれている通り、平和を愛する政府なので大規模に反撃されることはない。それに、発覚すれば世論の対応に追われて沖縄の島のことは全て忘れているだろう』ってありました。しかもそれが全部当たってますし。」
「的確な分析だなぁ」
「作戦βはどうなるんですかね。」
早く終わらせて島に残った残りの10人を回収に行って欲しい。石田がそう祈っているのが見なくてもわかる。
「まもなく会合地点です。」
そう告げると、緩んでいた空気がさらに緩む。兵装の乏しいはやぶさから世界随一の原子力潜水艦であるセイレーンに乗り移れるなら誰もがそう望むはずだ。
「セイレーン直下、距離10。ケーブル待機。」
「ケーブル投下を確認。接続よし。」
「こちらはやぶさ、これより回収を始めます。」
「こちらセイレーン。お疲れ様。本艦の速力は0、うねりなし。」
タンクから海水を出しつつ、セイレーンのお腹に徐々に収まっていくはやぶさ。外から見たら捕食されてるみたいなんだろうか。
「完全収容、外ハッチ閉じ完了です。排水まで3分お待ちください。」
「了解です。ありがとう」
尾形と拳を合わせて任務完了の合図だ。
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次は作戦βに巻き込まれる貨物船船長の視点です。
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