【芝居】人生とは芝居であり、私たちはみんな役者である

晋子(しんこ)@思想家・哲学者

私たちは『人』になるために『人』を演じる役者だ。人は人として生まれてこないからである

善人のフリをしている人は、つまり善人である。

悪人のフリをしていれば、その人は悪人だ。

心の中にどれほど純粋な想いや苦しみがあったとしても、それが他人に見えないものである限り、その人のすべてを決めるのは、やはり「言葉」と「行動」なのだ。


「心が大事」と言う人も多い。確かにそうだ。だが現実の社会では、心は他人には見えない。透明で曖昧で、存在しているようで存在しない。

だから、いくら「私は本当は優しいんです」と言っても、誰かに冷たく接していたなら、その人にとっては冷たい人間にしか見えないのだ。

人は、見たまま、聞いたままで判断する。そしてそれ以外の材料を持たない。


つまり、表に出た言葉や行動こそが、すべてなのである。

演技でもいい。見せかけでもいい。善人を演じ続けられるのなら、あなたはその時点で「善人」だ。

それは偽善ではない。本当の意味での善の力だ。


逆に、「自分は悪くないのに誤解された」「本当は違うのに」と言っても、言動がそれを表していないのなら、意味はない。

人は、見えないものを信じられない。見えない心よりも、目の前の言葉や振る舞いの方を信じるのは当然だ。

だから私たちは、「心の中でどう思っているか」よりも、「どう振る舞うか」を大切にしなければならない。


この考え方は、ある意味で残酷だ。

心の中でどれほど善良でも、社会的には何の意味もない。

優しい気持ちを持っていても、それを口にしなければ伝わらない。

愛があっても、態度で示さなければ伝わらない。


だが逆に、これは救いでもある。

「自分は優しい人間じゃない」と思っている人でも、優しく振る舞い続ければ、それでいいのだ。

本当は冷たい心を持っていても、あたたかい言葉を投げかけ続ければ、それで十分なのだ。


人は本質的に「演じる存在」だ。

先生であれば「先生」を演じ、親であれば「親」を演じる。

恋人になれば「恋人らしさ」を演じ、社会人として「社会性」を演じる。

私たちは皆、何かを演じながら日々を生きている。


この世界に「完全に素のままの自分」など存在しない。

むしろ、素のままを無理に押し通せば、他人を傷つけ、孤立するだけだ。

だから「演じること」は悪ではない。

むしろ「演じる力」が、人としての成熟であり、社会で生きていくための術であり、思いやりであり、知性でもある。


だから私は、こう考える。

人生とは、壮大なお芝居なのだ。

その中でどんな役を演じるかが、すなわち自分の人生である。

悪役を演じれば悪人になり、善人を演じれば善人になる。

その役が本心かどうかなんて、誰にもわからないし、どうでもいい。

見えるのは、演技の方なのだから。


そしてここで、気づいてほしい。

「心を偽るのはイヤだ」「自分を偽りたくない」という人がいる。

けれど、偽っているのではない。演じているのだ。

演技とは、なりたい自分への第一歩でもある。

「善人のフリ」でも、それを演じ続ければ、本当に善人になることだってある。

人は不思議なもので、演じているうちに本物になることがあるのだ。


たとえば、誰かに「ありがとう」と言うのが照れくさい人でも、演技でいいから「ありがとう」と言ってみればいい。

それを繰り返していくうちに、言葉は心に染み込んで、本物の優しさに変わっていく。

演技を通じて、自分を変えることはできる。


だから、私はこう言いたい。

心がどうであれ、まず「善人を演じてほしい」と。

優しい言葉を使い、誠実に行動し、誰かを傷つけないように意識する。

それだけで、十分に立派な人間なのだ。

「偽善」と呼ばれても気にしなくていい。

偽善は、悪よりはるかにましだ。


人は、誰かの善行に救われる。

それがたとえ「演技」であっても、受け取った人にとっては確かな善なのだ。

ありがとうの言葉も、誰かの笑顔も、励ましの一言も、それが本心かどうかより「言ってくれた事実」の方が何倍も価値がある。


そして、あなたがもし「自分の心は汚れている」と感じていても大丈夫だ。

汚れたままでもいい。だがその上で、どうか善を演じてほしい。

演じることでしか変えられない自分もあるのだから。


人生はお芝居だ。

心がどうであれ、幕が上がれば演じるしかない。

ならばせめて、誰かを傷つける役よりも、善良な役を選ぼう。誰かを救う役を選ぼう。


そしてその役を全力で演じきった時、あなたはもう、その役とひとつになっているはずだ。

つまり――本当の意味で善良な『人』になっているのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【芝居】人生とは芝居であり、私たちはみんな役者である 晋子(しんこ)@思想家・哲学者 @shinko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ