第23話 宝物

「お代はいらないよ。決して気持ちの良い話じゃなかっただろうに、付き合ってくれてありがとう」


「えぇ、二人のおかげで、少し気持ちが楽になったわ……」


「そんな、こちらこそ、私の身勝手なお願いで辛いことを思い出させてしまって……」


「私は今日一日でこのお店が大好きになりました。もし何かお役に立てることがあれば、協力させてください」


 店を出る間際、私たちは互いに挨拶を交わした。


「私たち、近々また来ます!」


「ありがとう。楽しみに待っているよ」


 店を出た私たちは、日が落ち始めた商店街を足早に駆け抜けた。


「あの公園、夜になると真っ暗になっちゃうから、急ぎましょう。暗くなったら、指輪なんて見つかりっこない」


「わかりました。……どうやら、何か心境の変化があったみたいですね」

 

 店に入る前と今とで、私は生まれ変わったような気持ちだった。


 故人に思いを馳せる人のことなんてまるで頭になかった。

 その上、さっさと祓ってしまえばいいだの、なんで探し物を手伝わなきゃいけないんだと、文句ばかり垂れていた。


 でも、ご夫婦の話を聞いて、そんな考えが間違っていたんだと気付かされた。

 同時に、そんな考えを持っていた自分のことが、堪らなく恥ずかしくて、愚かに感じられて、許せなかった。


「……私の気持ちが変わるところまで、ジュンナの予定通り?」


「さて、何のことでしょうか。さすがに精霊術でも、他人の価値観を操ることは出来ませんよ」


「ふん……、そういうことにしておくわ」

 

 ・

 ・

 ・


 かれこれ三十分くらいは砂場を引っ掻き回している。

 爪の間に挟まる砂も、衣服が汚れるのも、不思議そうにこちらを見つめる子供達の視線も気にせずに掘りまくった。


「リアさん、どうですか? こちらは収穫なしでした……」


 外周の茂みを探していたジュンナが俯いて戻って来た。


「私もダメ……。メグミさんの動きからして、絶対公園内、特に砂場が怪しいと思うんだけど……」


 メグミさんの精霊も、私の近くで砂場にしゃがみ込んでいる。彼女の動きは、明らかに砂場を中心にしているから、本人も砂場が怪しいと思っているはずなのに。


「やはり四ヶ月前のものとなると……」


「……わかってるけど……」


 日が暮れるにつれて、私たちも意気消沈という空気が流れ始める。

 高崎さんご夫婦、何よりもメグミさんを救ってあげたいのに、あまりにも打つ手がない。勢いと気持ちだけでここまで来たが、それだけではどうにもならない現実が立ち塞がる。


「ねぇねぇ!」


 高く幼い声の振り返る。


「お姉ちゃんたち、ずっと何してるの?」


 ベンチで休んでいた女の子二人組が、私たちの様子に見かねて声をかけてきた。もうすぐ17時だから、多分もう帰る時間なんだろう。

 そういえば、この女の子たちはよくこの公園の砂場で遊んでいるのだろうか?


 だとしたら、僅かでも望みは持てる。私はダメ元で彼女らの質問に答えることにした。


「私たち、今探し物をしているの」


「さがしもの?」


「そうよ。ねぇ、二人はよくこの公園で遊んでるの?」


「うん。わたしたち、休みの日はほとんどこの公園に来てるよ」


「もしかして、四ヶ月くらい前に、この公園で指輪を拾ったりしなかった?」


「ゆびわ?」


「このくらいの大きさの、金属の輪っかなんだけど……見たことないかな?」


 子供の相手がまるで得意でない私は、必死に身振り手振りで情報を伝える。隣で私の様子を眺めてるジュンナに任せるべきだった。ジュンナ、こういうの得意そうだし。

 私の伝えたいことを理解して、女の子たちは少し考えるそぶりを見せた。


「わたし、たぶん持ってるよ」


「え、本当!?」


「本当ですか!?」


 私たちは疑うこともなく食いついた。女の子は、食いつかれたのが嬉しいのか、得意気な顔で、リュックからマジックで『宝箱』と書かれている小物入れを取り出した。


「今もってるよ。ほら」


 宝箱から取り出されたのは、銀色の小さい輪っか。おもちゃや何かの部品にしては、やけに重厚感と高級感が溢れている。


 それはまさしく……。


「指輪!? 本当に本物じゃない!」


「うん。ちょっと前に砂場でひろったの。きれいだから宝物にしたんだ」


 その指輪は家族写真の中でメグミさんが着けていたものと同一のように見える。内側にイニシャルが刻まれているし、結婚指輪で間違いないだろう。砂場で拾ったということも、状況と一致する。道理で交番に行っても、いくら公園を探しても見つからないわけだ。


 私もジュンナも、予想していない展開に唖然とした。


「ねぇ! それ、お姉さんにくれないかな?」


「これお姉さんのなの?」


「正確には違うんだけど……、落としちゃった人がいてね。その人に返してあげたいの」


「うーん……でもぉ」


「お願い! 本当に大切なものなの!」


「ね、わたしてあげようよ。お姉さん、すごく困ってそうだよ」


「ん〜、わかった……。お姉さん、すごいガンバってさがしてたし。人の物はぬすんじゃダメってお母さん言ってたもん」


「あ、ありがとう!!」


「お二人とも、ありがとうございます」


 女の子から結婚指輪を受け取る。絶対に落とさないよう、私はそれを強く握りしめた。


「本当にありがとう。君たちのおかげで、きっと失くした人も喜ぶわ……。今度、お礼に好きなお菓子たくさん買ってあげるわね」


「それは大丈夫〜。あんまり知らない人から物をもらうなってお母さんが言ってた」


「じゃあ、5時になっちゃったから、わたしたち帰るね〜」


「あ、そ、そう……。またね……」


「現代の子供たちはしっかりしてるんですね……」

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