第3話 旅立ちとすんごい仲間たち

 ユウキ様の温かい手に引かれ、私は勇者パーティに加わることになった。

 しかし、旅立ちを前にして、私は早速、大きな問題に直面していた。


「あの……服が……」


 そう。スキルが発現してからというもの、成長を続けるこの胸のせいで、私が持っている服はどれもこれも着ることができなくなってしまっていたのだ。みっともなくはち切れそうになる胸元を、私は必死に腕で隠した。


「ああ、そのことか! 心配するな!」


 私の悩みを見透かしたように、ユウキ様はにっこりと笑った。


「新しい仲間を迎えるんだ。装備を整えるのは当然だろ? パーティの経費で最高のやつを揃えてやる!」


 そう言って、ユウキ様は私を伴い、王都ソリスティアの一流仕立て屋に連れて行ってくれた。もちろん、シルヴィアさんとダインさんも一緒だ。


 店の中で、改めて自己紹介をすることになった。


「シルヴィアです。エルフで、魔法使いをしています」


 美しいエルフの女性――シルヴィアさんは、値踏みするような冷たい視線を私に向けたまま、それだけ言った。


「はっきり言っておきますが、私はあなたのスキルが役に立つとは到底思えません。足を引っ張らないでくださいね」


「は、はい……! ごめんなさい……!」


 あまりの威圧感に私は蛇に睨まれたカエルのように固まってしまった。


「がはは! 堅いこと言うなよ、シルヴィア!」


 壁のように大きなドワーフの男性――ダインさんは、巨大な戦斧を肩に担いだまま豪快に笑った。


「おう! 俺はダインだ! 戦士やってる! ま、なんだ、よろしくな、嬢ちゃん!」


「は、はい! よろしくお願いします!」


 彼の気さくさに、私は少しだけ緊張がほぐれるのを感じた。


 服選びは苦行そのものだった。

 動きやすい冒険者服や、体を隠せるローブを試着するたびに、ユウキ様は「うん、いいじゃないか!」「その胸のラインを活かしたデザインも…」などとキラキラした目で感想を言う。その度にシルヴィアさんが「勇者、セクハラです」と冷たくツッコミを入れ、ダインさんは「まだ終わらんのかー」と大きなあくびをしている。


(恥ずかしい……穴があったら埋まりたい……)


 結局、ユウキ様が「これがいい!」と選んでくれた、胸元がゆったりとした冒険者服と、深くかぶれるフード付きのローブ一式をいただくことになった。


 全ての準備を終え、私はクライネルト家の玄関に立っていた。

 見送りは父と母だけだった。


「……クライネルト家の者として、恥ずかしい真似だけはするなよ」


 父は最後まで私の顔を見ず、苦々しくそう言い放って屋敷の奥へ消えていった。勘当同然の冷たい別れの言葉だった。


「ルルナ……お体を、大切にするのですよ」


 母は涙を浮かべながら、小さな布の包みを私の手に握らせてくれた。中には、わずかばかりの銀貨と、手作りのお守りが入っていた。


(もう、私に帰る場所はないんだ)


 胸に込み上げる寂しさを飲み込み、私は固く決意を固める。

 これからは、勇者様たちと共に生きていくのだ。彼らの足手まといにだけは、絶対にならないようにしなければ。


 屋敷を後にし、王都ソリスティアの壮大な門の前に私たちは立っていた。

 ここから、魔王を倒すための途方もない旅が始まる。


 ユウキ様が、私の不安を吹き飛ばすように、意気揚々と声を上げた。


「よし、パーティに新しい仲間も加わったことだし、まずは腕慣らしだ! ギルドで簡単な依頼でも受けようぜ!」


 彼は私に向かって、ウインクしてみせる。


「ルルナ、君の本当の力を、俺は信じてるからな!」


(ああ、ユウキ様……私が気負わないように、わざわざ簡単な依頼からと、お気遣いくださっているんだわ……!)


 私はまたしても、彼の優しさに胸が熱くなった。


「簡単な依頼で結構です」


 隣で、シルヴィアさんが腕を組みながら冷ややかに言った。


「まずは彼女が、本当にお荷物かどうか、この目で見極めなければなりませんから」


「腹が減ったな! ギルドの前に酒場で一杯どうだ!?」


 ダインさんが、自分のお腹をさすりながら叫ぶ。


 賑やかで、ちぐはぐで、少しだけ不安で。

 でも、不思議と心は軽かった。


 こうして、私の――勇者パーティの一員としての最初の冒険が、幕を開けたのだった。

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