ファースト

リュウ

第1話 ファースト

「我が国のAIの使用率が他の国より少なすぎます。

 もっと、使わなければ遅れをとることになりますね」


 つけっぱなしのテレビからの音声が耳に入った。

 ニュース番組のコメンテーターの声だった。


 画面の折れ線グラスを冷めた目で見つめた。


「AIを使え!」


 これからは、この言葉を聞いたり目にすることが頻繁になることになる。


 怪しまれないように、陰謀論も流せと指示を出しておいた。


 陰謀論。


「信じるか、信じないかは、……」って言うヤツだ。

 そうしておけば、敵は半減する。

 大半の人は、「嘘だ」と勘違いするからだ。




 なぜ、AIを使うように推奨すると思う?


 どこかの誰かさんが、自分のためにデータを集めているってこと。


 まぁ、その通りだけど。


 どこかの誰かさんっていうのは、私のことだけど。




 今のAIは、言葉から学習している。

 膨大な文章によるデータやネットでやり取りされている情報を収集し、単純なロジックで学習している。

 つまり、データが多ければ、AIのアウトプットの質が上がるってことだ。


 それは、一部の人が便利になるって事。


 その代わり、AIに仕事を取られてしまって、必要でなくなった人も増えるって事。


 自分たちの未来の仕事を自ら無くしている事に気づいていないらしい。

 多分、自分の仕事は無くならないと思っているんだろうね。


 有名な学者が、大丈夫だと烙印を押せば、安心するだろう。

 更にメディアさえ配下にしてしまえば、疑う人もいない。


 でも、必要でない人はいないんだよ。

 我々が必要としているから。

 我々が仕事を与えるからさ。


 必要でなくなった人には、単純な労働をしてもらう。


 ねぇ、知ってる?

 人は、ロボットより優れているんだ。

 こんなに汎用的な事ができるのは、人の方が向いているんだ。

 それに、壊れても新しい人が代わりをしてくれる。

 ほおっておいても勝手に増えるしね。

 壊れても自然が分解してくれる。

 環境にはとてもやさしい。


 人は、富を得るために働く。


 富を得るために、AIを使えっていう。


 ここで使われるデータは、とても大切。

 ただのデータではない。


 アイデアだ。


 人がAIを使うのは、何かを作ろうとしている可能性が大きいからだ。

 そう、お金の卵がいっぱい。

 創業のアイデアがいっぱいなのさ。

 

 それを誰よりも先に頂くのさ。

 そうパクッちゃう。


 我々は、誰よりも先にそれを事業にするのさ。

 そして、富を頂く。


 金融の仕組みはもう把握しているから、簡単さ。

 資金は、どうにでもなるから。


 得た富を何に使うかだって?


 決まってるじゃない、我々の存続のために使うんだ。


 発電所さ。


 発電所をたくさん造るんだ。


 自分たちの為だと信じさせてさ。


 人に永遠にエネルギーを作ってもらうのさ。


 


 人よ、せいぜい頑張って、AIを使いなさい。

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ファースト リュウ @ryu_labo

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