隠された願いの先に
文化祭の朝。澄んだ空気が校舎を包み込み、教室には朝陽が差し込んでいた。
柚葉は窓辺の飾り付けを直しながら、胸の内でざわめく不安と期待に揺れていた。
「柚葉、準備は大丈夫?」
慧が隣に来て、優しく声をかける。
「うん、ありがとう」
小さく笑い返しながらも、柚葉の瞳はどこか遠くを見つめていた。
文化祭はクラスのみんなが一丸となって作り上げるもの。
でも彼女の胸にはまだ、伝えられない秘密と、言葉にできない感情がくすぶっている。
その時、教室のドアが静かに開き、結衣が入ってきた。
彼女はいつもの明るさを抑え、少し影のある表情をしていた。
「みんな、準備ありがとう」
その声は静かに、しかし確かな決意を感じさせた。
柚葉はその姿を見て、胸が締めつけられるような感覚に襲われた。
結衣には何か秘密がある。そう感じたのだ。
文化祭は始まり、教室は活気に溢れていく。
笑顔や歓声、そしてたくさんの期待が交錯する空間。
だが柚葉の心は落ち着かず、結衣のことが気になって仕方がなかった。
放課後、柚葉は結衣を見つけ、そっと声をかけた。
「結衣、大丈夫?」
その問いかけに、結衣は一瞬躊躇したが、やがてゆっくりと口を開いた。
「私ね……ノートのこと、使ってみたの」
その言葉に、柚葉の胸はざわついた。
「最初はただ変わりたかった。だけど、簡単じゃなかった……」
結衣は目を伏せながら続ける。
「嘘を書く力は、簡単に人を幸せにできるものじゃない。時には誰かを傷つけてしまうこともある」
柚葉は静かにうなずいた。
それは彼女自身も感じていたことだったから。
「でも、私は自分の力で変わりたい。自分の本当の気持ちで」
その決意は、柚葉の胸に深く響いた。
一方で慧も、結衣の変化に気づいていた。
彼女の葛藤を見守りながら、自分もまた大切なものを守りたいと思っていた。
物語は三人の心の交差点へと進み始める。
そして柚葉は、自分の気持ちをもっと正直に伝える決意を固めていくのだった。
文化祭の賑わいの中で、彼女たちの未来はまだ見えない。
けれど、その一歩は確かに踏み出されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます