第3話 覚えてないの?

叔父さんと叔母さんが私に貸してくれた部屋は風通しが良く、障子紙には花の模様が薄っすら桃色で色付されていた。畳は心地よく、手入れされているのかいい匂いがした。部屋の隅に置いてある扇風機は多分使わなくていいだろう。

 なぜか置いてある自分の荷物を横目に、畳に敷かれた障子と同じ模様の布団に入る。さっきまでは眠くなかったが、今になると布団の肌触りと風が心地よくて、すぐに眠ってしまった。



 物音が聞こえる。おばさんが起こしに来たのかな。


そう思って、目を開けると少し前までは明るかった空も日が暮れて、薄暗くなっていた。体を起こし、布団から出ようとしたとき、


「わっ!」


私の横に誰かが寝ている。体は小さくて、髪は短い。肌はぷにぷにしていて、叔父さんじゃないし叔母さんでもない。誰だろうか。そう思っていると、私の声で目を覚ましたのか、その子は起き上がって私を見た。


「わ〜!おねーちゃん起きたんだね〜!」


おねーちゃん??

その子はたしかにそう言った。おねーちゃんとは私のことだろうか。


「おねーちゃんさ、ボクがももと遊んでる間に、先に寝ちゃって、、、。」

意味がわからない。今起きていることとこの子が言っていることが理解できない。

このままだと話に追いつかない!っと思った私は、


「あ、あの!おねーちゃんって私のこと?」

「そ〜だよ!ボクのおねーちゃん!ボクのこと忘れちゃったの?」

「忘れちゃったっていうか、、、、」


・・・忘れちゃったのって何?!私、この子と知り合いだったっけ?そんなことはないはず。前からいるなら、気づいているはず。叔父さんも叔母さんも何か言ってくれるはずだ。


「…う〜ん、私、君のおねーちゃんじゃないと思うんだよね」

「ぇ…おねーちゃんじゃないの?」

「うん、私じゃないかな。もしかして、迷子になっちゃった?」

迷子かもしれない。私は一人っ子だから、下の子がいるわけがないし、多分道に迷って通りすがりに来たのかもしれない。


「…で、でも!おねーちゃんは…おねーちゃんは!『柚月』…でしょ?」


「え…?なんで、私の名前を知ってるの?」


「なんでって…やっぱ忘れちゃったんだ…」

少し悲しそうに言う。その声は、細くて泣き出しそうだった。

私は、何故か申し訳ない気持ちになった。私は知らない子だが、この子は私を知っている。もしかしたら、記憶に残っていないだけで一度だけ一緒に遊んだのかもしれない。

沈黙が続き、蝉の声がジジジジッと鳴り響く。


「…私、君のことを知らない。だけど、君は私のことを知っている。多分よく知っているんだと思う。君が一緒にいたいなら、私は一緒にいてあげるよ。」

私がそう言うと、『一緒』という言葉が良かったのか、パァーッと明るくなった。

「いいの!一緒にいても?…やった〜!!!」

その場でジャンプをして嬉しそうにはしゃいだ。


「ボクは、ユウト!今度はちゃんと覚えてよ〜!」


「うん!ユウトね、覚えとくよー」


そう微笑んだ。ユウトもにっこりと笑顔を見せた。


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