第2話 充実した1日
夏休み2日目、早朝から電車に揺られながら早く着かないかなと思っていた。
都会から離れた自然の姿を車窓から見ては、コンビニで買ったメロンパンを口にする。
なんて充実した1日なんだろうと思った。毎日、朝早くから学校へ行って、満員電車で押しつぶされながら登下校をしている私は、このような1日の始まりがありがたい。
いつも通りの多忙の日々から、この長い期間遠く離れるのだ。
そんなことを色鮮やかな緑達を見ながら考えていると、車掌さんが私が降りる駅の名をアナウンスで流しているのが聞こえた。
駅を出るとブワッと涼しい風が葉っぱを連れながら流れてきた。
遠くの方で風鈴の音がする。涼しくて心地よい。
「おぉーい、こっちこっちー」
聞き覚えのある大好きな声がした。声の方へと顔を向けると、叔父さんと叔母さんが手を振りながらこちらを見ていた。私は、叔父さんと叔母さんの方へ駆け寄る。
「よく来たね〜、遠くて大変だったんじゃない?」
「ううん、そんなことないよー!これから長い期間宜しくお願いします。」
私は、ペコりとお辞儀をした。
「そんな、かしこまらないで、私たちが預かりたいと思ったから」
と、叔父さんと叔母さんは優しく微笑みながらそう言った。本当に優しい人たちだ。昔から私はこの人達が大好きだ。優しくて、元気で、頼もしい。
「じゃあ、日差しが強いから早めに家に戻りましょうー」
「うん!」
車で家までの道を進む。叔父さんたちの家は山の上にある。坂の道は、コンクリートが割れているのかゴドゴドと音をたて、揺れながら進む。
「綺麗な景色…」
車の中から見た緑に囲まれた景色は、都会では見られないものだったので、無意識に口から出てしまった。
「あら、そう?」
私の独り言が隣りに座っていた叔母さんに聞こえたのか、私にそう問う。
「うん、都会では見られないし、ただでさえ緑が少ないからね」
「そうかいそうかい」
話を聞いていた叔父さんが嬉しそうに言った。
20分くらい経ったのだろうか。やっと木々の隙間から家が見えてきた。叔父さんたちの家は、日本建築の構造をした家で、古いが、屋根は瓦だからなにか素敵に感じてしまう。
車から降りると、見覚えのある柴犬が私のもとへ走ってくる。ボフッと私に飛びつくように、飛び跳ねてくる。私がしゃがんで、毛を撫でると嬉しそうな顔をしてきた。
「あらら、ももちゃんったら、柚月ちゃんのこと大好きなんだから〜!」
叔母さんが私たちを見てそう言う。ふふっと私は微笑んだ。
「ワンワンッ」
返事をしたように聞こえた。この子は、私が子供の頃よく遊んでもらった柴犬のもも。人懐っこくて、甘えん坊だ。だけど、言うことは聞くしっかり者である。ふわふわの毛並みと首につけた桃色の首輪が私の好きなところだ。
「もも〜、会いたかったよぉー!」
ぎゅっと私はももを抱きしめる。ももの顔もにっこりしている。嬉しそうだ。
そうももと戯れていると、荷物運ばないといけないことを思い出し、車から荷物を取ろうとドアを開けたが、そこには私の荷物はなかった。
もしかしたら、叔父さんが運んでくれたのかもしれない。お礼を言わなくてはと思い、ももに「後でね」と言い家に入っていった。
玄関を通り過ぎると、茶の間に、叔父さんがいたので荷物のお礼を言おうと思い入った。足音で分かったのか叔父さんはこちらを見た。
「おや?もうももと遊ばなくていいのかい?」
「あ、また後で遊ぼうと思って」
「そうかいそうかい」
「叔父さんが私の荷物運んでくれたの?ありがとう!」
「…ん?ワシはそんなことしてないぞ」
「え?」
どういうことだろう、叔父さんじゃなかったら誰が運んでくれたんだろう。叔母さんが持てる重さじゃないし、荷物の量も多い。
「じ、じゃあ私の見間違えかな」
「そうかもしれんな、きっと長旅で疲れているのだろう。まだ夕食には時間があるから、少し寝てきたらいいんじゃないか?」
「うん、そうするよ!」
とそう叔父さんに言い、奥の方にある部屋へ小走りで行った。
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