第17話「世界エモ・パンデミック!」



『緊急速報です。世界各地で原因不明の集団パニックが発生しています』


学校の体育館。

巨大スクリーンに、信じられない光景が映し出されていた。


ニューヨーク――道路で人々が泣き叫んでいる。

全員の悲しみゲージがMAXになっているようだ。


パリ――広場で人々が怒り狂って物を投げ合っている。

赤いオーラが街を包んでいる。


東京――渋谷の交差点で、人々が恐怖で動けなくなっている。

紫の霧が、ビルの谷間を埋め尽くしていた。


「世界中で、感情が暴走してる...」


ユイが震え声で言った。


「13個の願珠が揃ったせいピル?」


ミラクルバードも不安そうに私の肩に止まる。


「違うわ」


ハーゼルが願いブックを操作する。

画面に、複雑なグラフが表示された。


「これは、ナイトメア団の最終作戦よ」


「見て」


レイが自分の端末を見せる。

世界地図上に、黒い点が無数に広がっていた。


「黒珠爆弾...各地に仕掛けられていたんだ」


ソウタが分析を始める。

「13の願珠が揃った瞬間を、トリガーにしていた」


なんてこと...

私たちは、罠にはまったの?


「でも、なんで人々の感情が見えるの?」


タケルの疑問はもっともだ。

普通の人には、願いペットも感情ゲージも見えないはず。


突然、願いブックが熱を持った。


『世界同期モード起動』

『13願珠の力により、全人類の感情が可視化されます』


画面が切り替わり、恐ろしい光景が映し出された。


希望ヶ丘市の住民たちの頭上に、感情ゲージが浮かんでいる。

ほとんどが、何かしらの感情で暴走寸前だった。


ピピピピピ!


願いブックに着信。

画面に、見知らぬ少女が映った。


「こちらアメリカ支部のサラ!」


金髪の少女が、必死の形相で叫ぶ。

彼女の後ろでは、巨大化した願いペットが暴れている。


「感情暴走が止まらない!助けて!」


続々と、世界中から通信が入る。


ロンドンのジェームズ。

「怒りが...怒りが収まらない!」


北京のシャオユー。

「不安で...みんな動けなくなってる...」


シドニーのエマ。

「愛情過多で、抱きつき合って窒息しそう!」


世界中にウィッシャーがいたんだ。

でも、みんな対処できないでいる。


「ミラ、どうする?」


ハーゼルが私を見る。

そうだ、13の願珠を持っているのは私。


「全員を助ける!」


「無理よ」


レイが冷静に言う。

「物理的に不可能。世界は広すぎる」


「でも...」


「待って」


ソウタが何かを思いついたようだ。

「13の願珠があれば、できるかも」


彼が願いブックに計算式を入力する。

複雑な図形が浮かび上がった。


「感情エネルギーの共鳴を使えば、同時多発的に鎮圧できる」


「どういうこと?」


「簡単に言うと...」


タケルが割り込む。

「俺たちが手本を見せれば、世界中のウィッシャーが真似できるってことだろ?」


「その通り!」


作戦会議。

私たちは3チームに分かれることにした。


Aチーム:ミラ、ユイ

→希望と勇気で「ポジティブ暴走」を担当


Bチーム:タケル、レイ

→怒りと冷静で「ネガティブ暴走」を担当


Cチーム:ソウタ、ハーゼル

→知恵と調和で「混乱暴走」を担当


「でも、離れて大丈夫?」


ユイが心配そうに言う。

今まで、ずっと一緒に戦ってきたのに。


「大丈夫」


ハーゼルが微笑む。

「13の願珠があれば、心は繋がってる」


そう言って、創造の願珠を掲げた。

透明な光が、私たち全員を包む。


「感じる...みんなの感情が」


不思議な感覚だった。

離れていても、仲間の存在を感じられる。


「行くよ、ユイ!」


「うん!」


ミラクルバードとブレイブラビットが、私たちを乗せて飛ぶ。

目指すは、希望ヶ丘ショッピングモール。


到着すると、異様な光景が広がっていた。


「やったー!」

「最高!最高!」

「もっと!もっと高く!」


人々が、危険なほどハイテンションになっている。

希望ゲージが15を超えて、制御不能。


屋上から飛び降りようとする人。

信号無視で走り回る人。

他人の物を「みんなで分け合おう!」と勝手に配る人。


「希望も、行きすぎると危険なんだ...」


「ミラ、どうする?」


ユイのブレイブラビットが、震えている。

この異常な希望の渦に、飲み込まれそうだ。


「そうだ!」


私は願いブックを操作する。

13の願珠の力を借りて、新しいモードを起動。


『感情バランサー起動』

『過剰な感情を適正値に調整します』


でも、簡単じゃなかった。

人々の希望ゲージが、私たちの介入を拒否する。


「幸せなのに、なんで邪魔するの!」

「夢が叶うんだ!止めないで!」


暴走した人々が、私たちに襲いかかってくる。


「ミラクルバード!」


「ピルル!」


虹色の光で、そっと人々を包む。

でも、効果が薄い。


「ダメだ...希望には希望で対抗できない」


その時、ユイが思いがけない行動に出た。


「みんな、聞いて!」


彼女が大声で叫ぶ。

普段は内気なユイとは思えない。


「私、すごく不安なの!」


え?


ユイの不安ゲージが上昇。

紫色のオーラが、彼女を包む。


「こんなに希望ばかりで...現実が見えなくなってない?」


ブレイブラビットが、紫と赤の光を放つ。

『複合感情技:心配する勇気』


なるほど!

希望の暴走には、適度な不安で中和する。


「そうだよ、ユイ!」


私も不安ゲージを意識的に上げる。

「希望は大事。でも、地に足をつけないと!」


ミラクルバードが新しい技を放つ。

『バランス・レインボー』


希望の金色に、不安の紫を少しずつ混ぜていく。

人々の表情が、徐々に正常に戻り始めた。


願いブックに、各地の状況が映る。


Bチーム(タケル・レイ)は、怒りの暴走を冷静さで鎮めていた。

アイスオウルの氷が、燃え上がる炎を優しく包む。


Cチーム(ソウタ・ハーゼル)は、混乱した感情を整理していた。

白竜が放つ調和の光が、バラバラの感情を一つにまとめる。


「すごい...うまくいってる!」


世界地図の赤い点が、少しずつ消えていく。

各国のウィッシャーたちも、私たちの技を真似し始めた。


『感情シンクロ率:全世界で上昇中』


でも、安心するのは早かった。


ゴゴゴゴゴ...


空が再び暗くなる。

巨大な黒い城が、空中に出現した。


「やはり、ただでは終わらないか」


ノクターンの声が、世界中に響く。

すべての願いブックに、彼の姿が映し出された。


「第一段階は、ただの準備運動」


彼が指を鳴らす。


パチン。


瞬間、世界中で第二波が始まった。


今度は、複数の感情が同時に暴走。

希望と絶望。

愛と憎しみ。

勇気と恐怖。


正反対の感情が、人々の中で戦い始めた。


「うわあああ!」

「助けて!」

「もうダメだ!」


混乱が、さっきの比じゃない。

人々が苦しみながら、地面に倒れていく。


「みんな!」


私は願いブックを通じて、仲間たちに呼びかける。


「バラバラじゃダメだ!」


「ミラの言う通りよ」


ハーゼルの声。


「6人全員でシンクロ・バーストを」


「え!?」


レイが驚く。

「距離が離れすぎてる。理論上不可能」


「いいや」


ソウタが即座に返す。

「13の願珠があれば、できる」


タケルも同意する。

「やってみなきゃ分からねぇ!」


「うん、ミラを信じる」


ユイがそっと手を握ってくれた。


よし、やろう。


「せーの!」


6人が同時に願いブックを掲げる。

13の願珠が、激しく共鳴し始めた。


ドクン、ドクン、ドクン。


心臓の音のように、願珠が脈打つ。

それに合わせて、私たちの感情も同期していく。


『ワールド・シンクロ・バースト』

『接続中...50%...80%...100%!』


成功した!


6人の姿が光の柱となって、空に伸びる。

それぞれの場所から放たれた光が、空中で一つに交わった。


そして――


巨大な光の鳥が誕生した。

6人の願いペットが合体した、究極の姿。


『ミラクル・フェニックス・アルティマ』


全長100メートル。

6色の翼を持ち、その羽の一枚一枚が感情の光で輝いている。


「これが...人間の力か」


ノクターンの声に、初めて畏怖が混じった。


ミラクル・フェニックス・アルティマが、大きく羽ばたく。

その一振りで、世界中に癒しの光が降り注いだ。


暴走していた感情が、次々と正常化していく。

人々が、ゆっくりと立ち上がる。


「ありがとう...」

「助かった...」

「なんだか、心が軽くなった」


世界中から、感謝の声が聞こえてくる。


でも、ノクターンは笑っていた。


「素晴らしい。だが、これで最後ではない」


黒い城が変形を始める。

それは、巨大な人型へと姿を変えた。


「来なさい、ウィッシャーたち」

「最後の戦いの時だ」


決戦の地は、希望ヶ丘市上空。

私たちの街が、世界の命運を握る戦場になる。


全員が、同じ思いで空を見上げた。


終わらせよう。この戦いを。


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