第7話「黒珠工場、地下に潜入!」



真夜中の学校。

月明かりだけが廊下を照らしている。


「本当にここから行くの?」


ユイが震え声で聞いた。

ブレイブラビットも、耳をピンと立てて警戒している。


「データに間違いはない」


レイが体育倉庫の床を調べる。

アイスオウルが青い光を放つと、床に巨大な魔法陣が浮かび上がった。


「やっぱりな。隠し扉だ」


タケルがバットで床を叩く。

ゴン、ゴン、ゴン...ゴォン。


「音が違う!」


「みんな、準備はいい?」


私は願いブックを確認する。

全員の感情ゲージが表示されていた。


```

【チーム感情ステータス】

ミラ:希望7 勇気5 不安4

ユイ:勇気6 不安5 信頼6

タケル:勇気8 怒り5 希望4

レイ:知恵8 信頼3 不安2

```


「不安が高い人は、後ろに」


「でも...」


ユイが前に出ようとする。


「大丈夫。恐いのは当然だから」


隠し扉が、重い音を立てて開いた。

地下へと続く螺旋階段。壁には不気味な紫の光が灯っている。


一歩、また一歩。

下るたびに、空気が重くなっていく。


「なにか...いる」


レインボーウィングが警告する。

「闇の力が濃いわ。みんな、気をつけて」


階段を下りきると、信じられない光景が広がっていた。


巨大な地下空間。

天井は見えないほど高く、無数のベルトコンベアが縦横無尽に走っている。


そして――


「願いペット...!」


ベルトコンベアの上を、無数の願いペットたちが流れていく。

みんな、ぐったりして動かない。


コンベアの先には、巨大な機械。

願いペットを吸い込んで、真っ黒な珠を吐き出している。


「これが...黒珠工場」


吐き気がした。

願いを強制的に絶望に変える、悪魔の工場。


「なんてことを...」


ユイが涙を浮かべる。


その時、足音が響いた。


「ようこそ、我が法廷へ」


黒いローブの男が、杖を突きながら現れた。

ランゲル。ナイトメア団幹部「黒の十三星」の一人。


彼の頭上には、威厳ある黒いライオンがいた。

バインドライオン。かつては正義の象徴だった願いペットの、堕ちた姿。


「ガルルル...法を犯した者に、裁きを」(罪人は処刑)


「子供が夜中に不法侵入。これは重罪だ」


ランゲルが杖を振る。

空中に、巨大な天秤が現れた。


「お前たちの罪を量ろう」


「今だ!ミラクルバード!」


先制攻撃を仕掛ける。

でも――


「判決。攻撃禁止」


ランゲルの声が響いた瞬間、レインボーウィングが凍りついたように止まった。


「な、なに!?」


「これが私の力『ルール・バインド』」


黒い鎖が、空間そのものを縛り付ける。

壁に、無数の「禁止事項」が浮かび上がった。


【現在有効なルール】

・攻撃禁止

・大声禁止

・後退禁止

・願いペット使用禁止


「ふざけるな!」


タケルが叫ぼうとして、声が出なくなった。

大声禁止ルールに引っかかったのだ。


「ルールは絶対。破れば罰が下る」


絶体絶命。

でも、この状況で私の不安ゲージが急上昇していく。


■■■■■■■■□□ (8/10)


「そうか...」


小声でつぶやく。

大声が禁止なら、ささやけばいい。


「みんな、聞いて」


全員が耳を澄ます。


「不安を...使うの」


レイがすぐに理解した。

「なるほど。禁止されていない感情」


ランゲルは「攻撃」を禁止した。

でも「回避」は禁止していない。


「シャドウ・ステップ」


不安の力で、残像を作り出す。

紫の軌跡を描きながら、工場の機械に向かって走る。


「小賢しい!」


ランゲルが新たなルールを追加しようとする。

でも、遅い。


「タケル!怒りを抑えて!」


レイが指示を出す。

怒りは「攻撃的感情」としてカウントされる可能性がある。


「ユイは信頼ゲージを上げて。『協力』は禁止されてない」


なるほど、ランゲルのルールには穴がある。

彼は「勝つため」のルールしか作らない。


「願いペット使用禁止...か」


私はニヤリと笑った。


「でも『願いブック』は禁止されてない!」


願いブックを高く掲げる。

画面に新しい機能が表示された。


『緊急システム:ダイレクトコネクト』

『願いペットを介さず直接感情を操作』


「させるか!」


ランゲルが焦り始めた。

慌てて新ルールを追加する。


「判決!願いブック使用きん――」


「遅い!」


不安ゲージがMAXに到達。

■■■■■■■■■■ (10/10)


『不安限界突破:パニック・モード』


紫の稲妻が、私の全身から放出される。

これは攻撃じゃない。ただの「感情の解放」だ。


バリバリバリ!


稲妻が機械に直撃。

黒珠製造ラインが次々とショートしていく。


「ぐわああああ!」


ランゲルが頭を抱える。

彼のルールが、矛盾で崩壊し始めたのだ。


- 後退禁止なのに、機械から離れたい

- 大声禁止なのに、叫びたい

- 攻撃禁止なのに、反撃したい


「これが...ルールの呪縛!」


「今よ!」


ルール・バインドが解けた瞬間、全員が動き出す。


「ブレイブナックル!」

「ドラゴンフレア!」

「アナライズ・レイ!」


願いペットたちの総攻撃。

バインドライオンが苦しそうに吼える。


「がああ!なぜだ!法は絶対のはず!」


ランゲルが膝をつく。


「あなたが間違ってるのよ」


私は静かに言った。


「ルールは人を縛るものじゃない。守るためにある」


工場から解放された願いペットたちが、元の持ち主の元へ飛んでいく。

小さな光の粒子となって、地上へと昇っていった。


カラン。


青い宝石が転がってくる。


『自由の願珠、獲得』


「...昔は、信じていた」


倒れたランゲルが、ぽつりとつぶやく。


「法の正義を。でも...」


バインドライオンが、少しずつ黒い色が薄れていく。

元の金色が、うっすらと見え始めた。


「守れなかった。法では、大切な人を」


彼も、願いに絶望した一人だったんだ。


「でも、まだ遅くない」


手を差し伸べる。

ランゲルは、その手を――


「甘いな」


別の声が響いた。


天井から、巨大な蜘蛛が降りてきた。

人間の上半身を持つ、異形の姿。


「グラムド様!」


ランゲルが青ざめる。


「失敗したな、ランゲル。規則など無意味だ」


グラムドと呼ばれた男の目が、不気味に光る。


「人の心こそ、最高の玩具。さあ、実験を始めよう」


彼の八本の足から、細い糸が放たれる。

その糸は、私たちの頭に向かって――


「逃げて!」


でも、遅かった。


糸が頭に刺さった瞬間、世界が歪んだ。


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