第24話

「ま、切り替えて次の件について。俺が顧問を務めるサイエンス部の、部員の一人である有馬が人体模型にイタズラをしたと疑われて叱責された件だ。これはもうほとんど答えが出ているようなもんだ。乙訓先生に嘉根の取り巻きの報告によって、有馬が謂れのない罪を認めざるを得なかった。」


先生はそう言いながらピザを平らげ、コーヒーを流し込む。問題だった人体模型は理科準備室の角で、布を掛けて保管されている。先生が三切れ目のピザに手を伸ばしたところで、二枚目のピザが出来上がった事を、電子レンジが知らせてくれる。

次に手渡されたのは冷凍ピザではなく、冷凍のお好み焼きだった。薄くて収納しやすい食べ物をたくさん買ってあるのだろうか。僕は無言でそれを電子レンジに入れて、慣れたように温めボタンを押す。

その間に先生は、またコーヒーを淹れたようで、部屋にはピザの香りとコーヒーの香りが入り混じって、ファミレスのような匂いを感じた。先生は何かを思いついたように立ち上がり、大きめのビーカーに冷凍庫から取り出した氷を入れて、そこにコーヒーを流し込んだ。行儀の悪いアイスコーヒーだが、この私物化された理科準備室では先生がルールなので黙っておく。


「嘉根の取り巻きである緒方は用具管理委員会であり、備品にイタズラをする事のハードルも低い。例えば今回の件で言うならば、サイエンス部として薬品を数種類頼んでいたんだ。それを理科室へ運ぶ際、簡単に理科室にある人体模型に手を加えられるのは分かるよな。緒方は嘉根と共にいて成績も優秀、比べて有馬は成績はそこそこだが内気な性格のせいで内申点が良くない。あの乙訓先生がどっちの言葉を正とみるかなんて、考えるまでもないだろう」


悲しいが、佐々木先生の言葉の通りだと思った。だからこそ、僕は内申点も成績も優秀を目指している。この窮屈な学校で権利を得るために。


「それから……アイツに頼んだら少々面白いことが分かってな。これを見てくれ」


そういうと、佐々木先生はスマートフォンを取り出して数回操作をして、ある画面を見せてきた。それは先日妹に教えてもらったオープンチャットの画面だった。


「これ……僕の妹も参加しているチャットです。気になっていて先生にご報告しようと思ってました」

「なんだ、知ってたのか。なら話は早い。トークを遡って……これだ」


そのトーク画面に映し出されていたのは、

私立金切高校、二年女生徒の犯罪歴大公開!?

という言葉と共にリンクが送られていた。


「これは……?」

「リンクに飛べば、所謂、裏掲示板サイトに飛ぶんだが、この該当ページは消されていた。それをアイツに頼んで見られるように頼んだ。これがそのスクリーンショットだ……言っておくが、この情報が正しいとは限らないからな。信じるんじゃないぞ」


写真アプリに飛び、映し出された掲示板のスレッドタイトルは思いもよらないものだった。


「私立金切高校二年緒方尚美、パパ活未成年飲酒に喫煙……?」

「まぁ、このサイトは消されたもんだからな。情報が正しいかどうかは置いておく。勘のいいお前なら俺の言いたいことが分かるだろう」

「緒方さんは脅されていたってこと、ですか?」

「その可能性が高い。こんな情報が回ったら緒方は内申点下落やイジメられるどころか、休学、いや退学になる。嘉根と思われるこのアカウントがどこでこの情報を拾ってきたのかは知らんが、これをネタに強請ゆすっていたんだろう。」

「あの、先生はなぜこのアカウントが嘉根さんだと?」

「……お前は分からんか。お前の妹だけにメンション付けたり、妹の欲しがる情報をすぐに持ってきたり、媚び媚びなんだよ。お前に似て妹も鈍感というか、危機感がないというか……もしかしたらお前の事も妹が情報を渡しているかもな」


僕はゾッと寒気を感じて、帰ればすぐに妹を問い詰めると心に決めた。

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