第21話

カツカツ、と指先で机をたたく音が部屋に響く。佐々木先生は苛立ちを隠すことなく何かを考え込んでいる。僕から何かを話し出す気にもなれず、一定のリズムで刻まれるその音をただ聞いていた。ほんの少し後に先生がカツ、と指を止めて口を開いた。


「あいつがいりゃ、残りの盗聴器がどこにあるかわかるのにな。まぁ、とりあえず電子レンジ回して、今聞かれてないことを祈るしかねぇな。どれがいい、好きなの選べ」


先生は机の下に隠すように置かれた冷凍庫をガサゴソと漁りだした。小さな正方形のそれは見た目以上にかなり詰め込まれており、霜が付く余地が無いほどだった。次々に机に置かれていくのは、あまり目にしたことのないフランス国旗の書かれた冷凍食品や、かと思えば僕が好きなスーパーに売っている冷凍チャーハンなどもあった。ほかにも冷凍のマカロンやタルトまであり、こんな小さな冷凍庫のどこに収納されていたのか不思議でたまらない。


「言っとくけど、ほかの誰にも内緒な。バレたら本当にめんどくさいんだから……」

「そりゃそうでしょう……じゃあ僕はこれを」


なるべく解凍に時間が掛かりそうな冷凍のピザを指させば、はい、と手渡される。先に先生の物を解凍しようと待っていれば、解凍の必要ないビターチョコマカロンを選んだようだ。

僕は裏面の注意書きと電子レンジで何分温めるのかを読み込み、書かれたとおりに八分間設定した電子レンジで温めのボタンを押した。

ボタンを押して振り返ると、先ほどまでとは打って変わって真面目な顔をした先生がいつの間にか用意したコーヒーを飲みながら座っていた。対面に置かれた椅子に座ると、話し合いが始まった。


「さて、お前も知ってる喫茶のマスターだけどな、アイツは元々探偵業をしていたんだ。まぁ、今もやっているらしいが。早々に脱サラして探偵して、今は喫茶店しながら裏で依頼をこなしているらしい。この間、店の中でイヤホンでもしとけって言ったのは、変に巻き込まれると面倒だからだ。」

「探偵ですか……」


小説では見たことがあるが、現実では見たことのない職業の名前に少し興奮する。あのマスターが探偵をしていたとは。


「それで、アイツにこの間頼んで聞いたんだよ。お前らがあの店で食事をしていた時のこと。いやぁ、どっちから言い出したのか知らんが、十中八九お前があの喫茶店を提案したんだろう。大正解だ。おかげでこの騒動の全貌が見えてきた。」


先生はコーヒーをごくりと音を立てて飲み干し、棚に隠されたコーヒーメーカーでまた新しい一杯を淹れ始めた。冷凍のピザはまだ電子レンジの中でグルグルと凍ったまま回っている。

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