最終話-2
*
最下層の生徒に与えられる四畳半の和室に寝ころんで、常盤爽司は通話していた。
『おめぇ、ろくに進捗レポートも送ってこねぇで……たまに送ってきたと思えばカラオケやらプールやらで楽しんでる画像ばっかじゃねえか! 遊びに行ってんじゃねえんだぞ! 自分の任務忘れてんじゃねえだろうなァッ! つうかそこホントに学校か!?』
青春を知らないおっさんの僻み半分。僅か八歳で組織の一員となった爽司を、昼夜問わず鍛え上げた師匠の不器用な温もり半分。通話アプリのホロウィンドウから唾が飛んできそうな大声にふと修業時代を懐かしく思い返しながら、爽司も憎まれ口で返した。
「忘れてねーよ、じいちゃんみたいにボケてねーし。だから……さ。それ以外のことは、好きにやらせてくれ。今、すげー楽しいんだ、オレ」
『……あんまり情に絆されるなよ。いざというとき、致命的に判断を鈍らせることになる』
痛いところを突かれて沈黙する。実際、竜秋を助けるために何度もチカラを使いかけた。正体がバレては爽司一人の処分では済まなくなるというのに。
《
執行官の職務は、ギフトを犯罪行為に使用する
『分かったら、任務内容を今一度言ってみろ』
師匠の、厳しくも本物の両親よりよっぽど親らしい温度のある声に、爽司は応えた。
「はいはい――言われなくても、桜慧はきっちりオレが殺すよ」
桜慧――世界に四名しかいない“
その定義は、「独力で地球を滅ぼし得る」能力者であること。
桜は条件を整えれば、地球の自転を停止することができる。それはつまり、地表の生物・建造物・自然の全壊滅を意味する。彼の気まぐれ一つで、地球は死ぬ。
第零級は、その危険性から、全員が世界政府によって最優先抹殺対象に認定されていた。日本政府の飼い犬である爽司には、当然の如くその任が降りかかったのだった。何より、最年少の爽司は年齢が適任であった。力を隠し、生徒として潜入することができる。
本来“
だが、よもやそのクラスに、ウソを見抜く能力者がいようとは。
入学早々、爽司は急遽、八百坂恋に助力を請う方向に舵を切った。
ごめん! オレ、本当は強いんだけど、ワケあって弱いフリしてるの! これバラされるとめっちゃ困るの! 最悪地球が滅亡するの! だから、黙っててくれない……?
――……はぁ?
嘘を見抜けるからこそ、恋は爽司の言葉に嘘がないことに驚きつつも、最終的にあまり首を突っ込む方が面倒だと悟ったのか、何も聞かずに秘密を守ってくれることになった。
「あのさ、じいちゃん」
言いかけて、爽司は言葉を飲みこんだ。
《
それを未然に防ぐなら、桜より先に、殺すべきは――
通話を切ると、チャットアプリのウィンドウが閉じて、重なっていたウラヌスの待ち受け画面が現れる。
そこには爽司を含む、四人の少年少女が顔を突き合わせ、紅い宇宙を背に笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます