星のパレット

@Temaxqwvv

こんにちは(嘘)、美術部です!

今夜、私は公園に出かけることにした。意外と星がきれいに見える夜で、この空を描きたいと思ったからだ。

場所を探していると、小さな丘が目に入った。ここなら空がよく見える。

丘に登り、キャンバスを設置して折りたたみ椅子を置いた。目の前に広がるのは、白い点で埋め尽くされた紺碧の夜空だった。

「……これだ。これこそ描きたいものだ」

私は満足げにつぶやき、椅子に座って深く息を吸った。カバンから数本の筆を取り出した。長年使い込んだ相棒たちで、真剣な作品にしか使わないものだ。


「わあ、あなたも絵を描きに来たの?」

突然、女性の声が風のように私の耳をかすめた。喜びが一瞬で吹き飛ぶほどの驚きだった。

びくっと震え、振り返ると、そこには巻き毛の髪と明るい笑顔の女の子が立っていた。


……女の子か。確かに、美術が好きな子はいる。でも、美術を作る人間を好きかどうかは別だ。可愛い男の子の絵は、たとえ技術が劣っていても、そうでない人間のプロ級の絵より好まれる。……はは、幸い私は見た目に恵まれている。内心でニヤリとした。


「ああ」と、やや不機嫌そうに答えた。「でも、見られると困る。人に見られるのは好きじゃない」


「私も絵を描きに来たの! ちょっとしたアーティストで~す」


アーティスト? そんな称号はまだ早いだろう。……ん? 道具が見当たらない。小さなカバンしか持っていないみたいだ。中に入るのは、せいぜい子供用のクレヨンと方眼紙くらいじゃないのか? 大層な「アーティスト」だこと。


彼女は私の横に座り、カバンからタブレットと変なペンを取り出した。


「……なんだそれ? 遊びに来たのか?」

眉を吊り上げながら、彼女は私を見た。笑顔が消えている。


「え? 何が?」

「そのタブレットと変なペンは何のためだ?」

「絵を描くためよ。この『変なペン』はスタイラスっていうの。デジタル絵を描くの」


デジ……ジ……何だって? 絵の種類はいろいろ知っているが、これは初耳だ。タブレットで絵を描く?


「……それでアーティストを名乗るのか? この言葉を冒涜するな! スタイラスでタブレットをこするのが何の楽しみだ? 絵の具の匂いも感じられず、間違えたらすぐ修正できる。それじゃ、一発で完成させる完璧な作品なんて生まれない!」


「で、でも……絵を描く人がアーティストじゃないの?」

彼女の目が泳いだ。私を見られず、唇が少し震えている。


……ふん、図々しいことを言うじゃないか。幼稚園児も毎日絵を描けばアーティストなのか?

「ただ描いてりゃいいと思ってるのか? 描くだけじゃ足りない。アーティストと呼ばれるに値する実力が必要だ!」


「……」

彼女の表情が暗くなった。頬が赤く染まる。……はは、傷つきやすい「アーティスト気取り」め。


数秒後、彼女は目に新たな炎を灯し、私を睨みつけた。

「……あなたは自分が『アーティスト』に値すると思ってるの? そんなこと言うくらいなら、キャンバスと絵の具を持ち歩いて適当に描いてるだけじゃないんでしょ? 何を成し遂げたの?」


……何だ? 俺にそんな口を利くつもりか? 俺は知る限り最高の実力を持っている! ……まあ、知ってるアーティストは自分だけだが。それはどうでもいい。


「ピカソとミケランジェロが同じ時代に生きてたと思ってそうな口ぶりだな」

「え? 違ったっけ……?」

「だから言ったんだ」

「むっ……!」

彼女はふんっと鼻を鳴らし、立ち上がった。座っていた場所の草がぺちゃんこになっている。スカートを直し、膨れっ面で背を向けた。


「……名前ぐらい言おうと思ったのに。野村美香(のむら みか)って言うの。でも、自惚れ屋のバカにはどうでもいいわよね!」


ミカはタブレットと「変なペン」を抱え、去っていった。「自惚れ屋のバカ」——そう呼ばれた。自惚れているわけじゃない。ただ、自分の実力を客観的に理解しているだけだ。認めることを恐れないだけだ。


……とにかく、絵を完成させなければ。そうしよう。


× × ×


次の日は、いつも通りの学校の日だった。相変わらず一人で過ごした。……だが、孤独は絵のアイデアを生む。例えば先週、退屈でよく眺める教室の窓からの景色を描いた。窓の横には木が生えていて、独特の影が机に落ちる。


……学校といえば、私の学歴はちょっと変わっている。子供の頃は美術学校に通い、その後は普通の中学校へ行った。そこで悟った真実がある——ほとんどの人間は本当のアートを理解しない。葛飾北斎? 知らない。歌川広重? お前のじいさんの名前か? 中学校以降は特にひどかった。


そして今、私は「星野ウェイ」(ほしのうえい)高校に通っている。文字通り「星の上の頂」——市内でも指折りのエリート校だ。


つい最近、忘れていた規則が復活した。おそらく「生徒を忙しく見せるため」だろうが、全員がいずれかのクラブに所属しなければならないらしい。まあ、星野ウェイのクラブはスポーツや音楽のプロを育てる場だから、みんな積極的に参加する。だが、言った通り、私はどこにも入っていない。


授業が終わり、いつものように帰ろうとした時、クラスはまだ賑やかだった。教科書を詰めていると、誰かが声をかけてきた。


「咲月くん、西村先生が呼んでます」


クラスが一瞬で静かになった。西村先生は外国語の教師で、2年J組の担任だ。沙夜・西村(さや にしむら)——これがフルネームで、彼女には致命的な癖があった。突然英語を混ぜて話すのだ。カッコいいと思っているらしいが、時代錯誤も甚だしい。


……だが、手が痛い。10年も空手をやっていたと自慢するから、反論する者もいない。彼女に呼び出されるのは死刑宣告と同じだ。


西村先生の職員室に入ると、コーヒーの匂いが鼻を突いた。もうこの部屋の一部と化しているようだ。


コーヒーカップを手にした西村先生が、私を見て眉をひそめた。カップを強く握りしめている。……ああ、これはマズい兆候だ。


「咲月くん、もう疲れたわ。あなたをかばい続けるのも限界よ。『最低一つはクラブに入れ』って上から言われてるの! This isn't great, わかる?」


……やっぱりか。


西村先生は冷静な目で私を見つめたが、足は小刻みに震えていた。私は口を少し開け、ふいに笑みを浮かべた。


「僕はもうクラブに入ってます。『クラブ未加入者の会』です」

「鈍い冗談はやめなさい。正式なクラブには最低3人のメンバーが必要よ。あなたの『未加入者の会』は1人だけでしょう? Understand, ハル?」

「いや、他にもクラブに入ってない人いるでしょ?」

「残念ながら、あなただけよ。そして学校はそれを許さないの!」


……なぜこのセリフは顔面への唾のように感じるんだ? はは、ここでも孤高の天才か。


「そうだ、人数不足のクラブといえば!」西村先生は突然声を弾ませた。「最近『美術部』ができたの。あなたにぴったりじゃない? ちょうど1人だけなのよ!」

「美術部? ふん、ありがとうございます、西村先生。でも、ゴミ拾いクラブの方がマシです」

「それもあるわよ? 『ボランティア部』って名前だけど。選択肢は二つ——美術部か、ゴミ拾いクラブか。~」


……ああ、言った通り、星野ウェイのクラブ活動は多岐にわたる。ゴミ拾いから、昼カラオケ部、クイズ研究会、オタク部まで……前回の説教の時に全部読んだ。その時は「考えておきます」で逃げたが、数週間も経てば忘れると思ったのに。


選択肢はない……しかも、似たようなクラブの末路を知っているから、関わりたくもなかった。


西村先生は私をどこかの教室へ引っ張っていく。2階にあるらしい。


先生のヒールの音が一歩ごとに、私の心拍を1拍ずつ速めていく。


途中、先生は振り向き、ニヤリと言った。

「そんな顔して。死刑台にでも引かれていくつもり?」


……聞いて呆れる。強制的にクラブに入れられて、なぜ機嫌が悪いと思う? 私はふんっと息を吐き、ぶっきらぼうに答えた。

「違いがありますか? 俺にはわからないです」


西村先生は嗤い、そのまま美術部の部屋へと私を連れていった。


そして、運命の時が来た。美術部のドアが開けられ——あの女の子がいた! 自分をアーティストと呼ぶあの図々しい子だ! タブレットに変なペンで何かを描いている。


「野村さん、新しい部員を連れてきたわよ!」

「こんにちは、西村先生! ありがとうございま……っ」

彼女は私の顔を見て、言葉を詰まらせた。


「どうしたの、野村さん?」

「い、いえ……ありがとうございます……」

「気をつけてね。この子、他人の存在を認めるのが苦手な自惚れ屋さんよ~」


……なぜ俺が「自惚れ屋」なんだ? スポーツ選手が自分の実力に自信を持っても「傲慢」とは言わないだろうが。


私は腕を組み、顔をしかめた。西村先生はそれに気づいたらしく、肩を小突いてきた。


「……えっと、俺は春咲月(はるさき つき)だ」

……この自己紹介、嘘くさすぎて吐きそうだ。


「なんだか知り合いみたいね……そしてハルがあなたに嫌なことをしたんでしょ。まあ、私の知ったことじゃないわ。クラブ、頑張ってね!」

そう言うと、先生は部屋を出ていった。


……ありがとうございます。本当に、強制的にこのバカなクラブに入れられて嬉しいですよ。私はテーブルに肘をつき、頬杖をいた。


「……西村先生も人選が下手ね。他にいなかったの?」


……は? 黙っているかと思った。私はテーブルから顔を上げ、彼女の目を見た。腕を組み、眉をひそめている。


「黙れ。こっちも機嫌悪いんだから」

「こっちだってたまらないわ。自己中なあなたと一緒なんて、ぶるぶる震えちゃう!」

彼女はわざとらしく震え、寒さか恐怖を演じてみせた。


……無視しよう。無視すれば話しかけてこないだろ?


「……あと2年も一緒よ。無視しても意味ないわ」


2年……地獄だ。だが、無視を続けた。そして彼女の予言は外れた——彼女はタブレットに戻り、絵を描き始めた。


ちらりと画面を見て、私は驚愕した。言わずにはいられない!

「な、何そのプロポーション! 目がデカすぎるだろ! 体のバランスもめちゃくちゃ! 鼻は点かよ! 頭も……ひどい!」


「は? あなた石器時代の人? これが『スタイル』ってものよ!」

彼女は叫び、唇を震わせながら続けた。

「……そして、これだってあなたの絵の具遊びと同じくらい努力が必要なの……」


……最悪だ。一瞬、絵が上手いんじゃないかと期待したが、そんなものは粉々に砕かれた。彼女をアーティストと認めることは永遠にない。


部活の時間が終わるまで、私は読書で時間を潰すことにした。もう彼女の絵を見る気もない!


……まあ、一つだけ良かったのは、自分の画材を持ち込んで、ミカに本物のアート——春咲月という天才の作品を見せつけられることだ。

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