余命わずかな私は、好きな人に愛を伝えて素っ気なくあしらわれる日々を楽しんでいる
ラム猫
第1話 愛の言葉
「アシェン様! 今日の私も、世界で一番アシェン様を愛しています!」
私は王城の廊下で、銀色の髪を風になびかせながら歩く背中に向かって、高らかに叫んだ。彼は一瞬だけ足を止め、振り返る。深い青の瞳が、僅かに私を捉えた。
「……君はいつも、暇なのか?」
いつもの、氷のように冷たい声。そして、眉一つ動かさない表情。
ああ、これだ。このそっけない反応が、私の心を最高に満たしてくれる。
「ええ。少しの暇があれば、貴方様に愛を伝えたいのです!」
にこりと心からの笑みを浮かべて返すと、彼はふと、小さなため息をこぼした。
「好きにしろ。だが、執務の邪魔だけはするな」
それだけ言うと、アシェン様はくるりと背を向け、迷いなく歩き去って行った。その颯爽とした姿は、まさにこの国の英雄、第一騎士団長の風格に満ちている。
彼の背中が見えなくなるまで見送ってから、私はふふっと小さく笑った。最高だ。本当に最高。
私はルーナ・エクール。王城の図書室で書物の整理をしている、取るに足らない存在だ。そんな私は、この国の英雄であるアシェン様に毎日毎日、欠かさず愛を告白している。傍から見れば、ただの奇行だろう。
アシェン様の周りにいる騎士たちも、最初はぎょっとした顔で私を見ていた。が、最近では「また始まったな」とばかりに、生暖かい視線を向けるだけになった。アシェン様が私を相手にしないと分かると、彼らも私を放っておくようになったのだ。
けれど、彼に愛の言葉を伝えるのには、私なりの理由がある。
私の体では、「
最初は、絶望した。けれど、ふと、アシェン様のことを思い出したのだ。
アシェン・ヴァルト様。王国で一の騎士とも言われる英雄様。彼は、私にとっては高嶺の花。けれど、どうせ死ぬなら、この募る想いを伝えてみたかった。
軽い気持ちで告白したあの日。アシェン様のあの冷たい反応を見た時。私はピンと来たのだ。
これだ! と。
彼のあのぞんざいな扱いは、私を傷つけない。なぜなら、彼は誰に対しても公平で、誰にでも冷徹なのだ。それが、彼が英雄である所以。だから私は安心して、彼に愛の言葉を伝えることができる。私の告白は、彼にとって朝食のパンのみみ程度の取るに足らないものなのだろう。
彼の心を乱すことも、彼の評判を傷つけることもない。これはただ、私だけの、ささやかな喜びなのだ。
明日は、どんな言葉で愛を伝えようか。考えるだけで、胸が高鳴ってきた。
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