第2話 ギャルがデレはじめた

 翌日。


 オンラインでフレンドと深夜までゲームしてたせいか、朝起きるのがつらかった。

 かと言って、学校に行かないわけにもいかないので、俺は眠気を我慢しながら、教室に向かった。


 昨日はゲームを否定されたとはいえ、さすがに言い過ぎたとは思ってる。

 別に星宮さんが絡んでくるのは嫌じゃない。


 いやではないが、陽キャに話しかけられるのはやはり少し困惑する。

 というのも、星宮さんはクラスの中心人物だ。


 そんな彼女に話しかけられると、周りの視線が一斉に俺に集まるわけだ。

 星宮さんは苦手だが、嫌いではない。けれど、周囲の視線が痛い。


 古坂高校にはクラス替えという制度がないから、一年生の時から同じクラスだが、星宮さんが絡んでくるのはわりと最近だ。

 二年生になっても、俺には友達がいない。でも、それは別につらいことではない。むしろ人の態度とか気にしなくて楽ではある。


 ただ、星宮さんに声をかけられると、どうしても注目を浴びてしまう。それが俺にとって少しストレスだったりする。

 まあ、でも、今日からはもう星宮さんに絡まれることはないだろう。


 教室のドアを開くと、いつものように机の上に座ってる星宮さんがいた。セーターを腰のあたりに巻いてるのはいかにもギャルっぽい。

 彼女は一瞬こっちをちらっと見たが、またすぐ視線を友達のほうに戻した。


 けれど、ほっとしつつ、星宮さんの隣を通って自分の席に向かおうとした時、


「お、おはよう……ゆうと」


 かすれるくらい細い声が聞こえてきた。


 振り返ると、星宮さんはいつものにやっとした笑い方ではなく、どこか照れたような感じで微笑んでいた。

 

「おはよう……」


 普通に名前で呼んでくれたからか、無視する気になれず、俺は普通に挨拶を返していた。

 にしても、いきなり下の名前で呼び捨てというのは、星宮さんのキャラなのだろう。


「あ、あのね……昨日は、ごめんね?」


「こっちこそごめん、言いすぎました」


「あ、えっ、う、ううん! ぜっんぜん気にしてないから! あっ、ちがくて……そういうわけでもないんだけど……」


「それじゃ……」


 無愛想って思われるかもしれないが、これが俺の精一杯の会話だった。

 オンラインだと、敵を倒すという共通の目的があるから、話しやすいが、ことこういう気まずい話になると、どうしたらいいのか俺には分からない。


「あっ、ちょ、っとまって……」


 会話を早々切り上げた俺に、星宮さんは袖をつかんできた。

 そして、丸めたお団子の紙を渡してくる。


「あ、とで読んで!」


 それだけ言って、星宮さんはまた友達との会話に戻った。



 席に着くと、俺は星宮さんに渡された紙を広げてみた。


―――――――――—―――――――

ゆうとへ


 今日おうちに行ってもいい?


            ひまり

―――――――――――――――――


 一瞬渡す人を間違われたのかと思ったが、ちゃんと俺の名前が書いてある。


 確認するように星宮さんのほうを見ると、彼女はキラキラした目でこちらを見つめていた。

 どうやら、これはほんとに俺に聞いてるのだろう。


 だとしたら、困ったなあ。


 俺と星宮さんはただの同級生で、しかもつい最近まで会話すらろくにしていなかった。

 それに、昨日はあんなことで怒ったのもあって、正直気まずい。


 にしても、なんで星宮さんは俺の家に行きたがってるのだろう。

 



 そんなことを考えていると、いつしか放課後になっていた。


 ――まあ、いいか。


 分からないことは分からない。俺と星宮さんはそもそも違うタイプの人間だし、彼女の考えを理解しようとするのは少しおこがましいのではないか。


 いつものように中央階段を避けるように、廊下を通って非常階段のほうに行くと、今日も先客が立っていた。


「……なんでよぉ」


 俺を見つけるやいなや、星宮さんはぷぅっと頬を膨らませていた。


「……ねぇ、手紙。見たんでしょ? 無視とか、さすがにひどくない?」


 昨日と同じ位置で壁にもたれかかり、足をぶらぶらさせている星宮さんは目を合わせてくれず一人ごちるように言った。


「無視はしてない、です」


「……です?」


「なんで星宮さんが、俺の家に来たがるのか考えてました……」


「そんなの……ゆうとと一緒にゲームがしたいに決まってんじゃん」


 はじけるように、星宮さんは壁から離れて少し近寄ってきて、


「ゆうとが、ダメって言うなら……しゃーないけど……だめ、なの?」


 上目で見上げてきた。


 少し涙目で、普段の星宮さんから想像できないような表情を浮かべている。


 ――まあ、べつにいいか。


 俺の中で、気持ちが別に星宮さんを家に招いてもいい方向に傾いた。


 でも、普通に返事してもつまらない。ゲーマとしては許せない。


 この時、きっと魔が差したのだろう。


「俺に、ついてこれるか……!」


 前髪をかきあげて、好きなRPGのキャラの声真似で。


 まあ、単なる照れ隠しだと思う。

 かりにも学校一の美少女(ギャル)を家に招待するのは、それだけ恥ずかしいことなのだから……。


「……も〜……ゆうとったら……かっこよすぎるんだけど……」


 この時の星宮さんの言葉が聞こえていたら、たぶん俺たちの関係性は変わっていたのだろう。




 

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いつも雑魚って言ってくる学校一の美少女ギャルを分からせたら、めちゃくちゃ懐かれた件 エリザベス @asiria

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