変身と孤独

いとう

第1話

僕にはおよそ友人と呼べる人がいない。家族にもずいぶんと会っていない。母親の顔すらはっきりとは覚えておらず、一人で何の刺激もなく、変化もない日々を送っていた。しかし、ある日僕は自分に備わっている力に気づいた。僕は様々な物に変化すことができた。最初に気づいたのは飛んでいた鳥を見た時だ。こんなふうに空を飛びたいと思っていた。すると僕は鳥になっていた。風を切って空を飛ぶのは何とも言えない感動で、僕は丸2日も空を飛び回っていた。しかし、冷静になって僕は元の人の姿になった。僕のなんの刺激もなく、友人もいない生活にようやく刺激が訪れたと、僕は歓喜したが、それでも孤独は離れていくことはなかった。次に僕はヒヨコになっていた、周りには他にもたくさんなヒヨコがいて、甲高い鳴き声をあげていた。そして、僕も同じように鳴こうとしたがどうにも上手くいかなかった。次に僕は魚になった。海の中で呼吸し、自由に泳ぐのは鳥なって空を飛ぶのと同じくらい楽しかった。そして僕はまた、丸2日海の中を泳ぎ続けた。しかし、海の奥深くに行くにつれ、日の光は途絶え、視界はボヤけて、僕は恐怖を感じるようになった。逃げるようにして次に僕はピアノになった。ピアノになると僕は目を閉じて、誰かが僕の鍵盤をたたくのを静かに感じていた。様々な人が僕をたたいた。僕から奏でられるメロディーは心地よく、僕はかなりの間ピアノでいた。ピアノでいると誰かが鍵盤をたたく時、人の温かさを知ることができた。そして僕はもっと人に触れ、人の温かさを知りたいと願った。そして僕はついに大地になった。僕の上を様々な人や動物が通り、温かさをとても感じることができた。僕はそこで動物の温かさも知ることができた。そこで僕はもっと温かさを感じたいと、海になった。僕の中で様々な魚や動物たちが、動き回り、大地よりも温かさを感じることができた。その代わり僕の奥深くは冷たく、なんの温かみもなく、動き回る魚や動物たちもいなかった。しかし、僕はこの海の温かさに魅了され、僕はしばらくの間海で居続けようと決めた。海になってしばらく経った頃、ふと元の人の姿に戻ってみようと思った。なぜそう思ったのかはよく覚えていない。でも、なぜか人に戻らなければならないと感じた。そして僕は元の人の姿に戻った。その瞬間、僕は凍えるような寒さをその肌に感じた。身体はガクガクと震え、骨はギシギシと軋み、僕の心臓は冷え切ってしまった。寒くて僕は涙を流した。しかしその涙も、氷のように冷たく、僕の身体をさらに冷たくした。僕はまた海に戻ろうとした。しかしなぜか僕はもう海になる事はできなかった。鳥にも、魚にも、ピアノにも、大地にもなる事は出来なかった。僕の口から、魂が抜け落ちるまで、僕は泣き続けた。

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変身と孤独 いとう @teppeiito1004

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