第22話:あだ名と、光の羽ばたき

「……王位継承権一位、だと?」


王都から戻ってきた使者の言葉に、サリウスは顔をしかめた。


「そんなつもりは……なかったのですがね。」


「やっぱり……厄介な……。」


俺はその言葉を聞いて、思わず苦笑する。

――あのとき、アルネアの真名を解放した俺が村で騒がれたとき、父さんも母さんも同じ顔をしたっけ。


「サリウス、王都から呼ばれるんじゃないか?」


「呼ばれるでしょう。ですが、行く気はありません。」


「え?」


「真名研究という大義名分ができましたからね。私は王都を離れ、あなたたちと旅を続けます。王冠より、今はこの旅のほうが重要です。」


「……なんか似てんな、お前と俺。」


「ふふ、そうかもしれません。」



---


翌朝、俺たちはヒートドランの背に乗り、風を切って移動していた。

隣でアルネアがぴょんと飛び上がり、俺の肩に降り立つ。


「カノン、名前……ながい……。」


「たしかにな。ヒートドラン・ヴァルグレイド……長ぇな……。」


サリウスが軽く笑う。


「長い名前は歴史の重みですが、あだ名があるのもいいでしょう。」


俺はヒートドランの顔を見て考えた。


「……ヴァル、って呼んだらどうだ?」


「グルォォ……!」


低く、誇らしげな声が響く。


「気に入ったみたいだな!」


「キュー!!」


アルネアが羽耳を揺らし、笑うように鳴いた。


「じゃあ決まりだな!これからはヴァルだ!」



---


その瞬間だった。


ヴァルの鱗がきらりと光を放ち、アルネアの羽耳からも光の粒があふれ出す。


「……な、なんだ……!?」


「キュ、キュウウウッ!」


「グルォォォォォ……!!」


二匹を包むように光が渦巻く。

その光は暖かく、でもどこか鋭さを秘めていて――


「カノン、下がれ!」

サリウスが叫ぶ。


俺は咄嗟に手をかざしながら、二匹を見守るしかなかった。


光が収束する。


「……まさか、変身……?」


次の瞬間、風が爆ぜた。



---


光の中から姿を現したのは――


アルネアは羽耳をさらに大きく広げ、身体のラインが滑らかに変化していた。

背中からは星光を帯びた翼が芽吹き、瞳は鋭くも優しい金色。


ヴァルは一回り、いや二回りも大きくなり、尾から炎の紋が伸びている。

鱗は赤銅から白金へ、瞳は青く輝き、まるで神話に描かれる聖竜のようだ。


「キュー……いや……ア……ル……ネア……!」


「グルォォォォォ……ヴァ……ル……!」


「……しゃ、喋った!?ヴァル、お前……!」


「……これが、真名同調のさらなる進化……!」


サリウスが目を見開き、驚きと興奮を隠さずに呟く。


「カノン……これからは、もっと大きな世界が待っていますよ。」


俺は笑った。心の奥から込み上げてくる感情をそのままに。


「行こうぜ、アルネア。行こうぜ、ヴァル!」


「キューーーー!!」


「ヴォォォォォォ!!」


光をまとった相棒たちを背に、俺は遠くに広がる未知の地平線を見つめた。


旅は続く。

新たな力と共に――。

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