悪逆非道

殺戮

 ツバサが危ないからという理由で手をつないだ。

 子供じゃないのになんでだ。

 シンデレラは一応疑問に思いながらも、そのままにしていた。

 明かりを持った従者たちが続々と入ってきて、明かりが段々と大きくなった。

 「皆さま、われらが外まで案内するのでついてきてください」

 従者たちと王、王子の冷静な応対のお陰で客たちも冷静さを取り戻していた。

 「では」

 誰かが言いかけた時だった。

 女性の甲高い叫びが起き、更に大きな叫びが混合された。

 それは宮殿の窓だった。

 窓にはびっしりと眼球があったのだ。

 血走った眼球は無数にこちらを向いており、ギラギラとしている。

 それらを見た客たちは我さきへと出口に向かった。

 混乱に陥る客、従者たちは思い思いに叫びをあげていく。 

 地面が揺れだす。

 ぐらぐらとまるで子供が無邪気にものを振るように、それは乱暴な揺れだ。

 立っていられないほどの揺れと無数の眼球。

 眼球がシンデレラを見ている。

 逃げなきゃ。

 そう思っているのに、まるでその眼球の眼光に捕獲され動けない。

 「みぃつぅけぇたぁぞぉ」

 不愉快な金属音と不協和音を混ぜた音声は、シンデレラに恐怖を与えた。

 逃げられない。

 怖い。

 誰か助けて。

 誰か。

 誰かの腕がシンデレラを無理矢理つかむと、床に転がり込んだ。

 「え、あ」

 ツバサだ。

 その足元でシャンデリアが派手な音とともに飛散した。

 「あ、ああ」

 シンデレラはやっと感情を取り戻したものの、それでも動くことが出来なかった。

 「大丈夫⁉ 立てる⁉」

 「あ、ああ」

 怖い。

 動けない。

 ツバサがシンデレラを抱え込んだ。

 「逃がすかあああああああ‼」

 更に激しい揺れだ。

 揺れで窓ガラスが割れ、シャンデリアがぐらぐらと揺れる。

 かけられていたシャンデリアがまた落ちた。

 「シンデレラあぁぁぁあああああ‼」

 黒い影はこちらに向かおうとする。

 「魔のもの去れ‼」

 光の球が影に突撃する。

 「きぎゃぁぁああああああああああ」

 聞いたことのないような音声だ。

 いや、それは音声というにはあまりにも異質だった。

 「シンデレラさん‼ ツバサさん‼ 逃げて‼」

 ケイレブ王子が手に光を持っている。

 「魔のものめ‼」

 王が杖を振ると光の煌めきが覆う。

 「去れ‼」

 「逃げます‼ シンデレラ‼」

 「逃がすかぁぁぁぁあああああああ‼」

 窓ガラスが全て割れていき、地面が罅割れる。

 城が壊れている。

 瓦礫が落ちていく。

 巨大な瓦礫がツバサとシンデレラに落ちていく。

 落ちていく。

 壊れていく。

 音が消える。

 割れる。

 落ちる。

 消える。

 壊れる。

 

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