Ⅵ敗北

 鈍痛が体内に残っている。

 起き上がると夜で、不気味なまでの静けさだった。

 俺は一体?

 見覚えのある場所だ。

 医務室だ。

 一度連れてきてもらったので覚えていた。

 「誰かいます?」

 声を出すと、「起きたのかね」と足音が聞こえカーテンを開けられると、ドクターがいた。

 「オウマ様と戦ったと」

 「はい」

 「凄いもんだ。若いのに」

 ドクターは簡単な診察をしてくれた。

 「骨折や打撲は無い。君は頑丈だね」

 「一応鍛えているので」

 「だが、他の者たちも言っていたが疲労困憊じゃないかね?」

 「そうでしょうか?」

 「君は若いが、疲労がいつの間にか溜まっていて体を壊すこともあるし、眠れていないのでは?」

 「寝れてはいるのですが」 

 「クマが出来ている。軽い睡眠導入剤を出すから少しそれを飲んでくれ」

 「はい」

 「明日は休んでくれ。ドクターストップだ」

 「わかりました」

 

 敗北した事実が、シンデレラの精神を落ち込ませていった。

 俺の実力ではオウマは倒せない。

 たとえ、この状況下でどんなに鍛錬を積んでもだ。

 シンデレラは睡眠導入剤の効果で浮遊感を覚えた。

 俺は勝ちたい。

 あの男に。


 オウマが笑っている。

 「お前は面白い男だな」

 シンデレラは無表情で彼を見ていた。

 「傀儡じゃないか」

 オウマの手がシンデレラに触れた。

 シンデレラは何もできずに、ただただそれを受け入れていた。

 何も出来ない。

 わからない。

 なぜ動けないのか。

 「どうした、シンデレラ」

 オウマは笑いながら、ただただシンデレラを弄んでいる。

 「俺は戦いたいのだよ。こんな平穏な世界ではなく、誰もが狂い、血肉にまみれた世界が欲しいのだよ」

 「……」

 「お前はなぜそれを見向きしない?」

 「……」

 「お前だって欲しているはずだ。お前の中にある獣を開放させないと、お前自身が苦しくなるのではないか?」

 シンデレラの中にある獣がうずいている。

 熱を帯び、張り裂けるほど蠢いている。

 血肉、そして血管に流れる血液の温度をあげていく。

 内臓が食い散らかされる。

 荒い呼吸が聞こえ、腹を見ると禍々しい眼球と口腔があった。

 口腔内はねばねばした唾液と、ぬらぬらした赤い舌が舌なめずりをして待っている。

 「なあ、シンデレラ」

 オウマが笑っている。

 「お前はなぜそうやって抵抗する?」

 「……」

 「お前も認めたらいいじゃないか」

 シンデレラはゆっくりと、そして感情を乗せずに言った。

 「俺はお前の傀儡じゃない」

 その言葉に、オウマが顔をゆがめた。

 「なぜだ?」

 「……」

 「なぜ認めぬ」

 「俺は傀儡じゃない。お前のような哀れな獣じゃないんだ」

 「ふざけたことを」 

 オウマの手がシンデレラの首を掴んだ。

 

 

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