Ⅳ純粋
その日のシンデレラの稽古は違った。
シンデレラが纏う空気が違う。
それはより鋭利で、冷たく、粗野なものを持っていた。
「シンデレラ」
「……」
「シンデレラ」
「え、ああ」
忠勝の言葉に我に返った。
「どうした? なんだか思い詰めているようだ」
「……なんでもない。少し疲れているのかもな」
「……そうか? あまり無理するな」
「ああ」
シンデレラは無理やり感情を直すと稽古に更に励んでいた。
師範代たちも、シンデレラの変貌に何か気づているのか視線を向けている。
「ん? 子供たちじゃないか」
リトが気づいたのか、そこにはハラ、テツ、タマ、数人の子供たちが見ている。
「お兄ちゃ~ん」
「シンデレラ兄ちゃん、出るんだろ?」
「ああ。お前たちも稽古するか?」
リトが誘い、子供たちと稽古することになった。
「シンデレラ兄ちゃん、疲れていない?」
「え? そうか?」
「そうだぞ」
「そんな時は美味しいもの食べるんだよ」
子供たちの無邪気で微笑ましい言葉にシンデレラはどこか救われるような気持になった。
「そうだな。俺疲れていたのかも」
シンデレラはやっと計算無く笑えた。
稽古が終わり、シンデレラは部屋に戻った。
オウマの言葉が毒のようにじわじわと蝕んでいたが、子供たちの純粋さに触れ少しだけ解毒出来たように思えた。
オウマの闇に触れてしまえば、その闇にのまれてしまう。
シンデレラは背筋が凍るような錯覚に襲われた。
俺はあの時、オウマへの憎しみより恐れを抱いた。
その事実がシンデレラの悔いを誘う。
オウマは悪だ。
悪そのものなのだ。
己の子供を殺しても、彼は何とも思わない。
シンデレラは鬱々とした気持ちで眠りについた。
これは夢だ。
分かっているこれは夢なのだ。
また無残な死体が地面に置かれている。
「シンデレラよ」
オウマだ。
オウマは人間としての器を保っているものの、醸し出す空気は最早『魔』だ。
「どうした。お前はまだ迷っているのか?」
「……」
「お前の持つ『暴力』と『獣』を認めないのか」
オウマは笑っている。
それは、凶暴な肉食獣が獲物を抑えつけているようなものだ。
逃げることなんぞ出来ないのに、慌てふためく姿を見て笑う残虐性。
「俺は……俺は獣じゃない」
「……」
「俺はお前みたいな獣じゃない」
「獣だと?」
オウマの目に怒りが含まれる。
びくり、と体が震えた。
「よいか? シンデレラ」
オウマが立ち上がる。
近づいてくる。
怖い。
でも動けない。
「お前は俺の傀儡だ」
「……そんな……」
「傀儡なんだよ。お前は」
笑っている。
誰か、誰か。
「お前は俺の玩具でしかない」
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