無邪気と毒

 シンデレラが昼時に道場に向かうと、汗を流して稽古に励む少年たちがいた。

 少年たちはシンデレラを見ると、表情が瞬時に変わり弾ける笑顔になった。

 「シンデレラさん‼」

 わらわらと少年たちが集まってくる。 

 「来てくれたんですね‼」

 「ああ。ええっと、稽古だっけ? 俺で良ければ」

 つられてシンデレラも笑顔になった。

 シンデレラは少年たちに稽古を教えていると、師範代のレムも来た。

 レムは子供たちを教える師範代らしく、主に棒術を教えている。

 レムも交えて稽古をしているとき、彼は自分に対して憎しみを向けられていることを知らなかった。

 

 なんだあいつ。

 オルカは廊下でシンデレラを一瞥すると、憎々し気に歩いた。

 いつの間にかきてああして勝手にしている。

 それが気に食わない。 

 オウマのおこぼれを貰い、師範代のレムや忠勝と仲良くしているのも気に食わない。

 自分はそんなことをして貰えないのに。

 ここに来て、もう十五年ほど経っている。

 いつの間にか年下が多い現状になっているが、一向に武闘会にも出られず、昇段試験も頭打ちになっている現状だ。

 大勢の中の一人で、無名に近い現実が更に焦りと苛立ちを覚えさせる。

 「それで……」

 忠勝とギュネスが歩いている。

 「お疲れ様です」

 「ああ、お疲れ」

 ギュネスと忠勝はそのまま会話に戻り去っていく。

 自分は誰にも気に留められない。

 「やはり、シンデレラが武闘会出場候補だろうな」

 忠勝の言葉がはっきりと聞こえた。

 あんな突然やってきたのが?

 オルカは更にイライラとした。

 「稽古教えるのうまいよな、シンデレラは」 

 「そうですか?」

 シンデレラの声が聞こえ思わず、ぎくりとした。

 「お疲れ様です」

 「お疲れ」

 「お……お、疲れ様です」

 シンデレラは一瞬不思議な顔をして素通りにすると、レムと話し込んでいた。

 どもった声を出してしまった。

 それを馬鹿にしたのだろう。

 自分勝手に肥大化した感情は、シンデレラの憎悪へと変化した。

 

 あいつ、俺を馬鹿にしやがって。

 

 道場出口に向かうと、掲示板がある。

 掲示板には、武闘会出場候補受付とあった。

 十五歳~三十歳までの男性、女性。

 オルカにとってはラストチャンスだ。

 十五年間。

 一度も出場出来ずにいる。

 自分よりも年下のものたちが出場し、師範になっているのを横目にするのはこれで終わりだ。

 オルカは決意を新たにした。

 絶対に出場する。

 そして自分を馬鹿にした奴らを見返してやる。

 そう思い背中を向けた時、どこからか馬鹿騒ぎした声が聞こえた。

 あの馬鹿たちだ。

 アキラとヤマは掲示板をまじまじと見ていた。

 「やっぱ出る?」

 「出る‼」

 「そう来るか‼ 俺も‼」 

 「よし‼」

 ゲラゲラと笑う。

 「アキラ兄ちゃ~ん」

 ハラ、テツ、タマ、シンデレラだ。

 「おつかれんこん」

 「兄ちゃんたちも出るの?」

 「勿論」

 「ええ~」

 「なんだよ、それ‼」

 馬鹿みたいに騒いでいる奴ら。

 てめえらが出るようなもんじゃねえんだよ。

 心の中で毒づきながら、オルカは去った。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る