深淵

 「シンデレラ」

 忠勝が声を掛けると、疲れた表情のシンデレラが見えた。

 「疲れていないか?」

 「……大丈夫」

 「……嘘を言うな」

 「……」

 「疲れているだろ? 師範の指導もあるだろうし」

 シンデレラの体には痣が多数見受けられた。

 オウマの指導はかなり苛烈で、根をあげるものを多い。

 忠勝自身もかなり過酷な指導をされていたし、何よりも生傷が絶えなかった。

 シンデレラの実力は更に伸びており、最初は訝しんでいた道場生たちも今では黙ってしまうレベルだ。

 シンデレラの才能と努力だ。

 「オウマ様は今は?」

 「お出かけになったんだ。確か……王国へと」

 「ああ。多分……大武闘会のことだろうな」

 「そうなのか?」

 「他の道場師範たちは、王宮に集まって出場する選手たちのことを話してくるんだ」

 「そうだったのか」

 「多分、シンデレラは選ばれるだろうな」

 「俺が?」

 「今では、お前が一番の実力者であるからな」

 「……そうかな……」

 忠勝はぽん、と肩に手を置いた。

 「少し休んだらどうだ? かなり疲れてもいるだろうし」

 「……」

 「それに……今のシンデレラの表情がかなりきつく見えるんだ」

 「……」

 「オウマ様の闇に飲まれそうでな」

 「‼」

 シンデレラは驚きの表情で忠勝を見た。

 「オウマ様は確かに凄い。だが……あの方はかなり深い闇を持っているように思えるんだ」

 「……」

 「俺はあの方に対してなんだかいつも恐怖を覚えるんだ。あの方は、暴力めいたものを好むように思えてな」

 「……」

 「俺やシンデレラもかなりの指導を受けた」

 シンデレラは俯いた。

 体には生傷と痣がかなり多くなっていった。

 「俺もまだ受けた傷がかなり残っている。それは師範代と言われるものたち全員だ」

 忠勝が遠い目をする。

 「シンデレラ」

 忠勝はまっすぐな目でシンデレラを見た。

 「お前は闇に飲まれてはならないんだ。お前はノアのためにも、そして友のためにも」

 「……」

 「闇に飲まれたものは戻ってこれない。それだけは、覚えていてくれ」

 

 忠勝が去ったあと、シンデレラは悩んでいた。

 自分もいつの間にか闇に交わろうとしたのでは? と。

 オウマの持つ雰囲気は、闇そのものだった。

 なぜ、彼らは無抵抗なのか。

 その理由をなんとなくであるが察知出来た。

 本能的に訴える恐怖そのもの。

 原始的な恐怖というものが、遺伝子に伝わっていくのだ。

 そして、いつしかその恐怖に抵抗するかのように憎しみが生まれていた。

 自分が自分じゃない感覚が怖い。

 

 オウマは一体何者なのだ?

 

 シンデレラは痣だらけの体をまじまじと見た。

 

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