エピローグ

休日の午後。風が通り抜けるカフェテラス。


小さなテーブルを挟んで、ふたりはタブレットを置いた卓上で向かい合っていた。


「ねえ、聞いてる? 海人さん」


「やっぱり子どもは、3人くらいがちょうどいいと思うのよ」


海人は気の抜けた笑みを浮かべ、ストローで氷をかき混ぜる。


「いーや、7人。ここは譲れない」


詩織は呆れたように目を細め、抹茶フラペチーノに手を伸ばす。


「そんなこと言って、あとで抱えきれなくなっても知らないからね」


隣の席にいた老夫婦が、くすりと笑った。


「まあまあ、若い人はいいわねぇ」


海人は「やれやれ」とでも言いたげに、詩織の顔をのぞき込む。


「まあ聞いてよ。7人目の子は名前を与えられなかった子で、誰からも愛されないんだけど──実は神に選ばれし者、っていう設定でさ」


「別にそれ、三人兄弟の末っ子でもできるでしょ。……ていうか、4人目から6人目は何のために存在してるのよ」


「違う違う、そうじゃない。7番目。そこが重要なの。あるいは13人兄弟の11番目でも可。それ以外は認めない」


「なんで頭下げて助言を頼んできたあんたの方が、無駄に偉そうなのよ……。もう、AIに面倒みてもらいなさいよ。私の代わりに」


「ごめんなさい、調子乗りました……。でも新章の導入さえ上手くいけば、書籍化の道が……」


「わかればよろしい」


老夫婦は顔を見合わせて、困ったように笑う。


「……最近の若い人って、ほんと、よくわからないわね」


カフェテラスの外は、夏の強い日差しを浴びて、過剰なほど眩しく輝いていた。


「ねえ、海人さん」


「ん?」


「来週の沖縄旅行……楽しみね」



「うん。最高の夏にしよう」




──ふたりの物語は、まだ続いていく。


                

                〜fin〜


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