第2話 CV弟のお兄様のお帰りです。
「おい、ユリ。お前に俺を攻略する名誉をやろう。」
満面の笑みで新品のゲーム機と見芽麗しいパッケージを差し出してきたのは、私の歳の離れた弟だ。
「お姉さま、僕の出演作をプレイしてください、だろうが。」
二十歳を過ぎたというのに、相変わらずの生意気小僧だ。そう思いながら、わざわざ、ゲーム機まで買ってきてくれるんだから、家族にも周りにもシスコンだのブラコンだの言われるよな。
そのゲームは、最近、リメイクされると話題になっていた乙女ゲームで。出演しているキャストさんは現役の方がほとんどでキャスト変更はせずにリメイクされることになり、ネットで喜びの声が上がっていたのを見かけた。そして、その中でほぼ唯一の新キャストが新たにルートが追加されボイスがつくことになった、ヒロインの兄を演じる「秋野 春斗」つまりは、私の弟である。
姉の私が言うのもなんだが、「秋野 春斗」というCV表記はこのところよく見かける売れっ子なのだった。でえベテランの大御所&中堅に囲まれながらも、どうやら弟はしっかりと仕事をしたらしい。偉いね、偉いね。もし出たら、お姉ちゃんがプレイしたるからな!なんて電話で話をしたが、まさかこうして買ってきてくれるなんて。
嬉しいし、誇らしい。そんな思いでプレイしたゲームのヒロインに。私は転生したらしい。
転生したことを思い出し、そしてひょっとしたら、ヒロイン兄の追加ルートである破滅エンドなのかもしれないという恐ろしい現実を知った、次の日、いつものように朝起きて森に行こうとした私は、見慣れない馬車が家の前にあることに気づいた。
「え。」
待って。あれ、もしかしてハロルドの馬車?
そんな早く来るの?こういうイベントって昼頃とかに起きるとばっかり。いや、特に理由はないけどさ。でも、そうだよね。馬車だもんね。新幹線みたいに何時に来るよって時間指定できないもんね。
まじかああああああああああ
森の中で動物にもふもふしながら、心を落ち着けようと思っていた私はいきなりの展開にパニックだ。
どうしようか。家に入る?それとも気づかないふりして森に駆ける?いや、でも。
迷っている間にも、馬車の扉が開いた。
そうして長い脚がしゃらーんと聞こえるはずのない効果音とともに
ドドド心臓が今までにないくらいに大きく鳴る。
ストンと地面に両足を降ろし、全身をその美しさを余すことなく曝しながら。
兄は、帰ってきた。
「久しぶりだね。私の可愛いリリー」
そう言って柔らかい微笑みを浮かべたお兄様の声は、間違えようもない弟の物だった。
CV弟のヤンデレお兄様の溺愛ルートに入りたくない 霜月 風雅 @chalice
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