第1章 黎明の朝 〜星州港開幕戦〜
第1話 鎮圧の日々
朝のニュースは連日、民衆のデモを報じている。しかし、そのほとんどがデモを否定するものだ。勿論、裏には政府の印象操作が存在する。ネットが普及した今、国民もそう簡単には騙されない。日に日にデモは激しさを増していく。激しさが増せば増すほど、政府の弾圧も過激さを増す。俺は、デモを弾圧する治安維持軍の隊長を務めてる。
「隼人。父上がお呼びだ。」
そう言ってきたのは、従兄弟の大伴光だ。嫌味ったらしいやつだが、これでも政府軍の副司令官。俺の上司である。父上というのは総帥大伴恒正のこと。一介の政治家だった大伴家をここまで大きくした功労者であり、独裁者である。
「失礼します。隼人です。」
総帥室にある大きなソファに座っている。まるで戦前の総理、高橋是清のようにダルマだ。政党政治に務めた偉大なお方に例えるのは高橋是清に失礼だろうか。容貌だけ似ていて、心は独裁者だ。父がいない俺を育ててくれたのも、甥だからかそれとも、、、
「よう来た隼人。まあ座れ。」
言われるがまま正面のソファに座ると、恒正は書類を机の上に置いた。その書類の表題には「特別平和執行群(SPEG)」と記載されていた。
「昨今、民衆によるデモや解放戦線による抵抗が頻発している。特に桜家率いる日本解放連盟はしぶとく活動している。いやいや、平和を脅かしてるのはどちらかね?私の願いはただ一つ。解放戦線の崩壊だ。」
確かに桜家は近畿を中心に反政府活動を長年続けてきた。そして、活動員は年々増え続けている。恒正も年だ。後継の海と光は優秀ではあるものの、恒正には遠く及ばない。自分が死ぬ前に決着をつけようとしているのだろう。
「そこでだ。隼人。君に特別平和執行群の総司令官を務めてほしい。君の治安維持軍での手腕を買ってだ。わかるだろう。これ以上のチャンスがいつ来ようか。」
チャンス。それは俺が当主の座を受け継ぐチャンス。ここで成果を立てれば後継は俺になる可能性があるということ。しかし、それ相応の危険と責任が伴う。覚悟は決まってる。
「勿論です。義父上。全力で取り組ませていただきます。」
恒正はニヤリと笑い、そうかそうかと言いながら社長椅子に座った。この独裁政府を終わらすには反乱を鎮め、政府内を統合するしかない。
「では君に部隊の編成も頼もうかな。そばに置きたい人を自分で選べばいい。とは言っても1人じゃ大変だろう。こっちから1人推薦しておくよ。入っていいよ鷹取君。」
入ってきたのは40代半ばほどの大柄な男だった。髭を生やし、目は細く、髪は短めだ。
「恒正総帥に命令され、隼人司令官の補佐に任じられました。鷹取誠二と申します。」
「彼は幾多もの戦場を駆けてきた言わば歴戦の猛者だ。隼人、君は頭もキレて器の広い男だ。しかし、経験が足りない。足りないものは他人が補う。つまりはそういうことだ。」
「仰るとおりです。では、鷹取さんよろしくお願いします。」
鷹取とともに部屋を後にした俺は新たな部隊創設のために人員を集めた。鷹取は数人の候補者をあげてくれた。
1、星 晴人 29歳
国防大学校首席卒業。戦場を俯瞰できる冷静さと時には手段を選ばない冷酷さを持つ。
2、甲斐湊 36歳
国防大学校卒業。10年以上参謀本部に所属しており、作戦の立案に長ける。
3、坂東義隆 21歳
第12期治安維持軍。現場での指揮や機転が良く、多くの隊員の信頼を得る。
4、朝霧佳乃 23歳
国家情報局。敵の暗号の解読や傍受、阻害を得意とする。
5、増田義久 25歳
六波羅第一部隊副隊長。機動部隊による電撃戦を指揮する。
「このような面々ですけどいかがでしょうか。」
鷹取の持ってきた候補者は皆優秀で俺の耳にも聞こえる人ばかりだ。しかし、候補者リストを見た瞬間から選ぶ人は決まっていた。
「3番と4番にしよう。3番のような現場で指揮できる者が欲しかった。また、現代戦において情報戦での優位は大きなアドバンテージになってくる。4番は適任だろう。」
「他の候補者は良いのですか?優秀な幹部は多くて困らないと思いますが、、、」
「良いのだ。人が多ければ多いほど、意思決定は遅くなる。その一瞬の遅れが戦場では命取りになる。戦場を経験してきたあなたなら分かるはずだ。」
「ごもっともです。では、この2人をすぐに招集します。また、隊員も他部隊の精鋭を集めます。数週間でこの軍を作り上げます。」
頼りになる男だ。恒正からの推薦ということで警戒していたが、忠義に熱く、迅速な判断ができる。理想的な副官だ。
〜2週間後〜
「みんな良く集まってくれた。君らの助力のおかげで特別平和執行群が結成された。」
富士山の麓の富士宮市に本部を置いた。総員7万人。その半分が他部隊から集められた精鋭だ。そしてこの7万人を第一部隊、第二部隊、第三部隊、第四海上部隊、第五機動部隊、第六空挺部隊、第七後方支援部隊に編成した。第一部隊には俺自らが隊長を兼任し、第二部隊には鷹取が、第三部隊には坂東義隆が隊長となった。朝霧は第七後方支援部隊の隊長となり、他第四、第五、第六部隊には、俺の治安維持軍からの同期が隊長となった。
「ではこれからのSPEGについて話したいと思う。まず我々の目的は解放戦線の崩壊。そのためには、解放戦線の主軸を担っている桜家を潰す必要がある。」
鷹取が議論を進めた。議題はどのようにして桜家を潰すか。しかし、肝心の桜家の根城がわからない。これでは、いくらゲリラ部隊を撃破したところでトカゲの尻尾切りだ。
「桜家に宣戦布告してはいかがでしょう?」
そう提案したのは朝霧だった。朝霧は議論の間ずっと腕を組み、考え事をしているようだった。朝霧の意図はこうだ。まず、桜家の主要港である星州港を攻めると伝達する。桜家は勿論、防衛を固めるが、こちらの兵力の前に撤退。これを追跡し、根城を突き止める。
「悪くないが、問題は星州を攻め落とせるのかどうかだ。そうだろう?隼人司令官。」
確かに、星州を攻め落とせなければ、全てが無に帰す。
「なら敵により多くの情報を与えましょう。さすれば星州の守りも薄くなる。」
「いい案だ。では朝霧は宣戦布告の準備を。鷹取は出撃準備に入れ。攻撃は4月4日。」
「「「了解」」」
こうしてSPEGは、星州港攻撃を画策し、1週間後の4月3日に出撃。日本内戦の火蓋が切って落とされた。_
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