マザーズバイブル

張知山責軍

第1話破瓜

人は何のために生まれるのか。この問いは、有史以降永遠と考えられてきた人類史上最高峰にして最難関の命題だ。私はアレを知り、理解するに至るまでは身近な人間や自分に享受された幸福や不幸を祝福し、頭の中に芥子を一面に咲かせ、阿片を吸引するために生まれると思っていたのだ。しかし、現在はぷちぷちだ。あのぷちぷちが忘れられない。




 私は孤児であった。幼少の頃母にポイされ、養護施設に入所した。母は、ポイの3日後広瀬川の川岸に打ち上がっていたらしい。そんな私もスクスク育ち、小学校に入学することができた。しかし、小学生孤児の学校生活が惨惨たる事局になるのは自然の摂理。教師も子供も何も変わらぬ偏見、差別、区別。私はまだ見ぬ母に初めて愛憎の念を抱いた。それが小学校6年間。義務教育の記憶。




 しかし、中学に上がる頃フイっと家族が出来た。新たな家族は苗字が姉歯で家族構成は無精子病の夫、そしてその妻だった。夫は無精子病のせいで元妻に離婚され鬱病になっていた所、現在の妻に献身的に支えてもらい入籍したそうだ。その二人の仲はというと、私が疎外感を覚える程だ。でも、そんな私への配慮を二人は欠かすことがなく、本当に大事にしてもらった。家族がいるおかげで、学校生活も順風満帆。塾にも通わしてもらい、成績は中学校のツノにいた。私はそんな二人が何者にも代え難い大切な人達になっていた。将来は実母に出来なかったことを二人に実行してやる。そんな幸福な夢も得ることも出来たのだ。しかし、そんな夢は儚くも崩れ去った。


 


 母が妊娠したのだ。父は崩れ去り、狂った。私に単純な暴力を振るうだけではなく、ソッチ系の暴行をすることもあった。しかも、父は私では飽き足らず、父が思う諸悪の根源母の子宮を重点的かつ目一杯殴打していた。偏見差別区別時代よりも受け入れ難い光景。ついには母も狂いだし、全裸になり、父に純潔の証を見せた。これでようやく終わると思った。しかし、父は、


『どうせ、再生手術でもしたんだろッ死ね!』


父は証を殴った。破瓜はしなかった。そんな生活が1ヶ月程続いた。流石に妙だと思った隣人が警察や児相に通報したらしい。私は養護施設に逆戻り。父と母は別々の精神病院に入れられた。あんなに仲良かったのに。別々の精神病院か。


 


 定期的に双方の見舞いに行く。父はすっかり健常者に戻っていて、私が来ると常に土下座をしている。そして父は、母にも謝罪したいと発言しているが、母はもうすっかり精神が参ってしまい、健常者に戻るのはとても難しいと聞いた。精神は蝕まれているのに、お腹は大きくなるばかりだ。私は家庭を崩壊させた赤ん坊に強い憎悪の念を持つのと同時に、生命の神秘に不可思議を感じていた。そしてついに陣痛が来たそうだ。母はいつもより声高らかに発狂していた。そんな母を脇目に助産師さんたちは、冷静沈着に母の患者服を脱がせる。すると現れたのは、赤ん坊の顔面が張り付き、赤ん坊の顔面の凹凸を如実に投影した処女膜。こんな奇天烈じみたことあるのか。


そして、生まれる。処女膜が




ぷちぷち




そしてついには処女膜がはちきられた。赤ん坊の顔面は血だらけだ。助産師さんが赤ん坊を引っ張る。しかし、引っ張っても抜けない。やっと、抜けたかと思えば赤ん坊は死んでいた。しかし、こんな重大な出来事が生じても助産師さん達は微動だにせずただ淡々と死体処理をしている。ちっぽけだ。そう思った。何度も父は母の子宮を殴り、母の心身の状態はとても悪い。そんな状態なのに、巨大に実った母の腹。生命力以外の何ものにも感じなかった。それなのに、処女膜破って終了というのは…やるせない。デキたなら、生まれろよ。家庭を崩壊して去るんじゃない。この思いをお前にやらずにどこにやるんだ。母はこの出来事の3日後に窓から飛び降り、ぐちゃぐちゃになった。父はこれを聞き、正常者から異常者に歩を進めた。意思疎通が困難になり、いざ会話をしようとすればこちらの言葉に対し、父は母に対する贖罪を常につらつらと述べるようになった。その謝罪内容に私の記述はなかった。もうなんだろう。本当。でも、扶養してもらったことは紛れもない事実なので、毎日学校の帰り道に姉歯さんの見舞いに行く。そして、精神病院へ行く道中妙な若い女に話しかけられた。


『身近な人にさ、赤ん坊がセックスしてないのにデキて、処女膜破られた人っている?』


to be continued…


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