第7話


 金曜日。

 いつも通りの放課後。

 でも、その日はなんとなく、結月と話すテンポが少しだけ噛み合わなかった。


「ごめんね、なんか……今日、私、ちょっとぼーっとしてるかも」


 ベンチに座りながら、結月がポツリとつぶやいた。


「疲れてる?」


「……ううん。そうじゃなくて。……いろいろ、考えてた」


 視線の先は、どこか遠くを見ていた。


 ふたりの関係をはじめてから、初めての沈黙だった。


 俺も、結月も、なんとなく言葉を探している感じだった。



 そして、その沈黙を破ったのは、スマホに届いたLINEだった。


 ──《玲奈:今日、少し話せる?》


 俺は一瞬、既読をつけるのをためらった。

 でも、放っておけなかった。


「……ごめん、今日、ちょっと用事あるかも」


 俺がそう言うと、結月は顔を上げた。


「そっか……うん、大丈夫。じゃあ、また来週」


 無理に笑っているのが、わかった。

 でも、そのときの俺は、それ以上追いかけることができなかった。



 放課後、学校近くの公園。

 ブランコの前で立っていた玲奈は、制服のまま、風に髪を揺らしていた。


「……で、最近どうなの。白石さんと」


 ストレートな質問に、俺は言葉に詰まった。


「別に……付き合ってるわけじゃない。ただ、ちょっとした事情で、話すことが多いだけ」


「ふーん。……でもさ、圭太の顔見てたら、なんか……わかっちゃうんだよね」


 玲奈が視線をそらさずに言った。


「好きなんでしょ、白石さんのこと」


「……わかんないよ、そんなの」


「ううん、わかってるくせに。あんた、顔に出るんだから」


 玲奈は笑った。でもその笑顔は、どこか痛々しかった。


「ねえ、圭太。……もし、あの子と何もなかったら、私のこと……少しは考えてた?」


 その言葉が、胸に突き刺さる。


 答えられない。だから俺は、黙った。


 沈黙のまま、時間だけが過ぎた。



 その夜、スマホの通知がひとつだけ光った。


 ──《結月:明日、少しだけでも会えない?》


 その一文を見て、俺の胸の奥で、何かがぐらついた。


 玲奈のこと。

 結月のこと。


 どちらも、俺にとって嘘じゃない。


 だからこそ──揺れていた。

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