第7話
金曜日。
いつも通りの放課後。
でも、その日はなんとなく、結月と話すテンポが少しだけ噛み合わなかった。
「ごめんね、なんか……今日、私、ちょっとぼーっとしてるかも」
ベンチに座りながら、結月がポツリとつぶやいた。
「疲れてる?」
「……ううん。そうじゃなくて。……いろいろ、考えてた」
視線の先は、どこか遠くを見ていた。
ふたりの関係をはじめてから、初めての沈黙だった。
俺も、結月も、なんとなく言葉を探している感じだった。
◆
そして、その沈黙を破ったのは、スマホに届いたLINEだった。
──《玲奈:今日、少し話せる?》
俺は一瞬、既読をつけるのをためらった。
でも、放っておけなかった。
「……ごめん、今日、ちょっと用事あるかも」
俺がそう言うと、結月は顔を上げた。
「そっか……うん、大丈夫。じゃあ、また来週」
無理に笑っているのが、わかった。
でも、そのときの俺は、それ以上追いかけることができなかった。
◆
放課後、学校近くの公園。
ブランコの前で立っていた玲奈は、制服のまま、風に髪を揺らしていた。
「……で、最近どうなの。白石さんと」
ストレートな質問に、俺は言葉に詰まった。
「別に……付き合ってるわけじゃない。ただ、ちょっとした事情で、話すことが多いだけ」
「ふーん。……でもさ、圭太の顔見てたら、なんか……わかっちゃうんだよね」
玲奈が視線をそらさずに言った。
「好きなんでしょ、白石さんのこと」
「……わかんないよ、そんなの」
「ううん、わかってるくせに。あんた、顔に出るんだから」
玲奈は笑った。でもその笑顔は、どこか痛々しかった。
「ねえ、圭太。……もし、あの子と何もなかったら、私のこと……少しは考えてた?」
その言葉が、胸に突き刺さる。
答えられない。だから俺は、黙った。
沈黙のまま、時間だけが過ぎた。
◆
その夜、スマホの通知がひとつだけ光った。
──《結月:明日、少しだけでも会えない?》
その一文を見て、俺の胸の奥で、何かがぐらついた。
玲奈のこと。
結月のこと。
どちらも、俺にとって嘘じゃない。
だからこそ──揺れていた。
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