エピローグ
厨房には、誰もいなかった。
熱気はすっかり消え、鍋やまな板も、まるで舞台を降りた役者のように沈黙している。
そこへダイゴが足音を響かせながら入った。
だレからの返事もない。冷たい石造りの部屋。
白衣に袖を通し、水を張り、野菜を切る。
包丁の音だけが、響いた。
ふと、カウンターの隅に紙片が置かれているのに気づいた。
そっと手に取り、開く。
──《ダイゴさんへ》
帰ったら、またみんなで料理をしましょう。 それが、ひとつだけのお願いです。
まだ伝えたいことがある気がするので、帰る理由はそれにしておきます。
──《ノラ》
ダイゴは手紙を読み終えると、何も言わずにそれを折り、丁寧にポケットに収めた。
待つというのは、なにも、ただ立ち止まることじゃない。 誰かの帰りを信じて、火を絶やさず、場所を守り続けること。
それだって戦いだ。
ガスコンロのつまみを倒す。
まるで運命のスイッチを切り替えるように。
何かに祈るように。
ゆっくりと。
カチッと小気味の良い音が響くと青白い炎が、ぽんと音を立てて灯った。
素晴らしきヴァルハラ飯店の日々 松本もか @mookaa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます