1話 救護

「私は……どうすればっ!!どうすれば良いのじゃ……!!?」


いくら揺すっても、ゼムトが起きる気配がない。


「……!!確か、回復薬ポーションがゼムトのカバンに……入ってた…はず…」


彼女はゼムトと、その周りをくまなく探す。だが、近くにはゼムトの背負っていたカバンがない。


こんなことなら。こんな事になってしまうのなら。

ゼムトが言ってたみたいに……回復系統魔法キュア・マジックを、しっかり鍛錬しておけばよかった。―――――




★     ☆     ★


「いーやーじゃー!!我は竜種じゃぞ!!?なんでそんなこまごまとした魔法を覚えなきゃいかんのじゃ!」


ルデリナはぷくーっと頬を膨らませ怒りの表情をあらわし、ゼムトの腰のあたりをぽかぽかと叩く。


「痛い、痛いって。……でも、ほら。ルデリナとか、俺に万が一があったときさ。

もしルデリナが回復系魔法キュア・マジックを覚えてたら、まぁ、少しの気休め程度にはなるだろ?」


「でも!そんな事言うならゼムトが覚えれば良いのじゃ!!我には関係ない!

我はとにかく高火力でちゅっどーーん!といく!!それで良いのじゃぁ!」


その言葉を聞いて、ゼムトは苦笑しながら、


「まぁ、俺ができるんだったら俺に任せてもらいたいもんだけど……いかんせん魔力量が著しく低いらしくてな……練習こそしてるんだが。

全く持ってできる気配がない。」


そう言って、ゼムトはふっと自嘲した――――――――。





★     ☆     ★


「お、おうきゅうしょち!とにかくおうきゅうしょちしないと……っ!!」


ルデリナの頭は、ゼムトが死んでしまうかもしれないと言う恐怖によって、思考を止めようとしていた。

………仕方のないことなのかもしれない。なんせ、彼女に接してくれたのは彼だけだったのだから。


「いや……しんじゃいやじゃ!!……目を……目を開けてくれぇゼムトっっ!!」



バァンッ!!

部屋の扉がものすごい勢いで開き、医療服を着たギルドの人達が入ってきた。

無意識のうちに、を使っていたようだ。


「大丈夫ですかっ!…………っ!!?」


その人達も驚くほどの重症だったらしい……が、すぐに気を取り直し。


「私達がゼムトさんを救護室で処置いたします。ルデリナさんは……外傷はなさそうですが、しっかり診てもらってください。」


そういって、彼女……のノエルは淡々と彼の応急処置をしていく。


「では運びますよっ!!せーのっ!」


そうして、彼を担架に乗せて、彼女らは出ていった。

――ここに残ったのは私、だけ。



それを実感すると、途方もないほどの寂しさや悲しさが込み上げてきて……

彼女は長い時間慟哭していた。




――――――――――――――――――――――――――

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