鉄火山の契り
藤泉都理
鉄火山の契り
どんどん傾きがなくなっていって『
ごろごろと、鉄火色の岩の山肌が露わになっている『鉄火山』の所有者の孫であり、岩切職人の弟子である
まあ、『鉄火山』がきれいさっぱりなくなってる頃には、あたしは億万長者になっているだろうけどねえ。
『鉄火山』の鉄火岩は、その美しい色と頑丈さから城の建設によく使用されており、あちらこちらの城主から売ってくれとの申し出が後を絶たないが、鉄火岩は切るには特殊な技術を要しており、また、岩の数にも限りがある為に、すべての申し出を景気よく受け入れる、という事はできず、『鉄火山』の所有者である夏鈴の祖母が査定をした上でどこの城主の申し出を受けるかを決断していたが、申し出を断られてしまった城主から恨みを買って、孫の夏鈴にその矛先が向く、という事が多々あったものの、そこは鉄火肌の夏鈴。護衛役の二人の男性と刀で向かってくる相手を素手で千切っては投げ千切っては投げの大盤振る舞い。しかも怪我をさせちまって悪かったねえと優しく微笑みながら、自分たちが千切っては投げまくった相手を介抱するもんだから、夏鈴に惚れこんで自ら舎弟に申し込んだ老若男女は数知れず。もはや、そんじょそこらの城主では叶わないほどの一大勢力を誇っていたってもんだ。
「夏鈴様は『鉄火山』がなくなっちまったら、どうなさるんですか?」
「そうだねえ」
鉄火岩の切り出し作業を行っていた兵太郎に差し入れを持って来た夏鈴。立ったまま手拭いで汗を拭う兵太郎の隣に腰をかけて、商いをしないとねえと言った。
「一緒に働いて、おまんまを一緒に食って、出迎えて、見送るもんたちが増えちまったからねえ。『鉄火山』がなくなっちまったら、そうさねえ。農作業をしながら定食屋でもやろうかねえ」
「定食屋ですか?」
「何だい?」
「いえ。護衛業でも始めるのかと思ってましたから。夏鈴様をはじめ、皆さん腕っぷしが強いですし」
「あんたも腕っぷしは強いだろうが」
「いえ。あっしはしがない岩切職人の弟子です。皆さんのようには闘えません。岩を持って逃げるのが精々ですよ」
「そうでもないと思うけど。まあ。喧嘩が好きだって事は否定しない。楽しいしね。ただ、喧嘩するにはおまんまをいっぱい食わなくちゃいけない。腹が減っては戦はできぬってね。だから、喧嘩は好き勝手やって、喧嘩の根本の食を生業にする事にした。うん。農作業と定食屋。ただそれは『鉄火山』がなくなってからの話さね。それまでは、『鉄火山』を守る事があたしの生業だ」
「『鉄火山』は夏鈴様の大切な山でございましょう。なくなっちまっていいんですか?」
「ああ。なくなっちまっていい。新しい形で生き残ってくれてんだ。それであたしは満足だよ」
「そうですか。なら、あっしは大切に丁寧に鉄火岩を切る事に専念する事をお約束しやす。未熟者ですが、心を込めて、技術の限り、最期の最期まで、お供をします」
「ああ。任せたよ。兵太郎」
「はい。夏鈴様」
夏鈴は立ち上がると、水が入った竹筒を兵太郎へと差し向けた。
兵太郎は深く頭を下げると、腰に下げていた竹筒を夏鈴の竹筒に、こつんと、当てるのであった。
(2025.7.22)
【経緯】
〇「肌」は真っ先に思いついたのが「山肌」であるけれど、他にも使った事がない知らない「肌」のつく単語はないか調べた結果、「鉄火肌(喧嘩っ早いが根に持たない性格。男勝りな女性)」を発見。
〇鉄火肌の女性とその女性に助けられる職人の話にしよう
〇山は出したい
〇傾きの意味を調べて、「○○する傾向にある」というものもあるよし使おうと思っていたものの、結局角度の傾きしか取り入れられず
〇山肌が見えるという事は、岩やら石やら砂やらが露わになっている
〇岩の使用方法といえば、城
〇岩を扱う仕事といえば、岩切職人、岩割職人
〇これらを取り入れて完成
鉄火山の契り 藤泉都理 @fujitori
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