第4話
放課後、遠くで吹奏楽の練習であろうかクラシック曲が聞こえる。また窓からは運動部の威勢の良いかけ声も耳を掠めた。授業も終わり、それぞれの時間を過ごす雰囲気が満ち足りている校内。しかし、今、私が身を投じている場所は周りとは少し異なり不思議な空気が漂っていた。
というのもプリントを貰って2日後の今日。実行委員1年による備品検査のまっただ中であり、私、佐藤、赤砂がクラスでしおり作成を行っている状況なのだ。まあ半数の備品は体育祭以外に使用しない為、正確な数や、劣化による不良品等の選別を行わないといけないのは理解出来る。ただ私と、佐藤は後藤先生の申しつけにより、当日の実行委員タイムスケジュールのしおりを作成させれているのだ。
そんな指示を出した先生は不在であり、最初は佐藤と二人で作業するのかと気が気ではなかった。が、赤砂がなんやかんや言って手伝ってくれているという状況である。
(渡りに船ってこう言う事よね)
まあ、感謝はしているものの、相変わらずのナルシストな話には苦笑いしか出てこない。今も、作業はしているが、不毛なやり取りが繰り広げられている。
そんな様子で気づいた事がある。佐藤は仲の良い相手には普通に話すと言う事。それがあまりにもあからさま過ぎて目の前の情景を疑いたくもなる。しかし、現に赤砂とのコントの様な会話を先日同様、見せられているのだから、これが素の佐藤なのであろう。
(こう見てると年齢相応だよね)
そんな事を思い思わず笑みが零れると、それに気づいたのは赤砂だった。
「かのかちゃんどうしたの急に笑って」
「いや、なんでもないです」
「うっそーー そんな事ないでしょ。さては、碧がいつもよりしゃべってるのが気になる?」
「…… うん。まあそうだね」
「かのかちゃんって素直ーー」
「おい。俺を話のネタにするな。っていうか修。お前いつの間に筒宮の事名前呼びなんだよ」
「おっ、羨ましいですか碧君。別に君も呼んでも良いだよ。ね、かのかちゃん」
「えっ」
「実は知り合いだったのか修?」
「まさか。いやね俺もさっき知ったって言うか。このプリントに記載あったからさ。しかも名前呼び、今のが初めて」
「はあ? 何それ? まあでも修はさもありな話だな……」
すると佐藤が不思議そうな顔を浮かべこちらを見た。
「あーー 何か別に気にしないっていうか。それに赤砂君なら想像範囲内かなって」
「思った以上に柔軟性あるねかのかちゃん」
「はあ。お褒め頂き光栄です」
「二人して不思議な空気感の会話してるな」
「おーー 流石の突っ込み担当碧君」
「あっ、でも赤砂君。みんなの居る時は名前言わなくて良いから。ちょっと色々大変そうだから」
「ははは。それは肝に銘じておくよ」
そう言い彼は左手で頭を掻いた。すると手首に恋印が刻まれている事に気づくと共に、納得の二文字が頭を過る。そんな私の心理に察したのか、彼は咳払いをし、私と佐藤の目の前に痣を曝け出す。
「いやーー 君達はまだないだろうけど。俺は中2の時からなんだよね」
「だから」
「そうなんだね」
「ちょっと二人共。ちょっと塩過ぎない? これだってそれなりに戦略あっての事なのに」
「修。戦略も何も、そのまんまだろ?」
「ふふふ。違うんだなーー まあこれは碧にも話していなかったけど、俺って中学の時からモテるだろ? それって嬉しいんだけど、いかんせんやれだれとつきあうだの、告るだの繰り返しあると大変なんだよね。俺的には、それが年々増えていくと課程したわけ。だから早いうちに、コレ出てれば、そういった事が減るかなって思ってさ。それ踏まえて当時告ってくれた女性と全員とつきあったら現れ始めたんだよね。最初は出なくてさ。試しに『好きだよ』連呼し続けたら出た感じ。まあでもこれのお陰か、ちやほやされる事はあっても、告られる事なくなったし、結果オーライかな」
「あーー 一時期彼女絶えなかった時期あったな。そんな事思ってのかよ。にしてもさそれ」
「サイテー」
「その事に関しては賛同」
「かのかちゃんそんな冷たい事言わないでよ。当時の俺はそれが最善だと思ったんだからーー 若気の至りだと思ってさ」
「それにしたって、そのつき合った子達の気持ちがっ」
「うん。だから付き合う前にその事情話した上でつき合ったよ」
「嘘でしょーー それでも付き合いたいって…… 私には到底理解が出来ないですけど」
「まあそんな事情があってもつき合いたい思わせる程の俺の魅力ってとこかな」
「…… もう言いたい事は言えたか?」
「おいっ、そんな突っぱねるなよ碧。今はそんな小賢しい事無しで誠心誠意女性に尽くしてあげているよ」
「…… 赤砂君にこれ以上恋愛関係で言っても駄目かもと思ってきました」
「修。目の前で異性に見切られたぞ」
「えーー そんな!!」
苦笑いを浮かべる私の前で赤砂は天を仰ぎながら、頭を抱える。その時窓ガラスをノックする音に気づき、そちらを見た。すると、備品を見ていた同学年の女子生徒が立っていた。
「あのーー 筒宮さん。作業中申し訳ないんだけど、ラインナップされている備品がどこにあるかわからなくて」
「あ、は、はいじゃあちょっと行きますね」
「うん。有難う」
そう言うと彼女は立ち去って行く。私は手にしたプリントだけ処理すると、立ち上がった。
「じゃあちょっと行ってくるね」
「おう」
佐藤の代わりに赤砂が答え、出入口へと向かおうとした時、ドアを全開にしていた事で、廊下を通り過ぎる女子生徒が視界に入る。と、同時に、背後にいた赤砂が声を上げた。
「おーい葉実」
その声に反応する事なく、通り過ぎたのも束の間。彼女が顔を出す。清楚で背中まで伸びた、黒く綺麗なストレートの髪を揺らし静かげな雰囲気の人で凄く大人っぽく、純日本風美人といった感じだ。そんな彼女が溜息をつき、教室に入ってきた。
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