森にすむともだち

みずえ

第1話

 僕の名前は草太。小学3年生。

 もう直ぐ、待ちに待った夏休みが始まる。

 夏休みは、サッカーのサマースクールや、遊園地やプール、海水浴にも行きたかったし、おもいっきりゲームをするつもりだった。なのに、夏休みの数日前に、お母さんが、

「草太、夏休みは田舎のおじいちゃんの所へ泊まりに行ってくれるかなぁ。お母さん、もうすぐ赤ちゃんが生まれるから病院へ入院するのよ。夏休みにはサキも帰っているらしいから。ね? いいよね? ずっとって訳じゃないから、ね?」

 って言ったんだ。

 はっきり言って、僕はショックだった。友達の直樹と和弥とも、遊ぶ約束をしていたのに。

「何でだよ! 夏休みは直樹と和弥と一緒に遊ぶって約束していたんだから。約束は破るなって、いつも言っているくせに、ずるいよ! サッカーのサマースクールだってあるんだよ! 僕一人で留守番できるから、いいじゃん!」

「お父さんが帰ってくるのはいつも夜遅くだし、何があるか解らないから、お母さんが安心して入院できるように、協力してよ、ね? 直樹君と和弥君には、お母さんからも説明しておくから」

 大きなお腹をさすりながら、お母さんが言った。

 お腹をさするのは、最近の、お母さんの癖だ。時々僕にもさわらせてくれる。赤ちゃんが動いているのがわかるんだ。

 しょうがない・・・。どうせ最後には、「生まれてくる弟か妹のためなんだから」って言うに決まっているんだ。だから僕は、それ以上何も言わなかった。それに、よーく考えてみると、田舎のおじいちゃんの家に泊まりに行くのは、そんなに嫌な事ではなかったんだ。

 おじいちゃんの家は、牧場を経営していて、牛がたくさんいるし、犬のタロウもいる。家の裏には森があって、ペットショップで売っているような、クワガタやカブトムシを自由に捕まえる事ができるらしい。お母さんの妹のサキちゃんも、大学がお休みで、おじいちゃんの家に帰ってくるみたいだし。サキちゃんは、動物のお医者さんになる為の大学に行っていて、虫の事や、動物の事が詳しいから、とっても話が合うんだ。

 そんな訳で、夏休みが始まると、おじいちゃんの家に行くまでの間は、毎日、直樹と和弥と一緒に、プールに行ったり、ゲームをしたり、宿題をしたりした。

 直樹と和弥は、田舎っていうものを、知らないらしい。

「田舎ってどんな感じ?」

「海とか山とかあるの?」

「ゲームセンターは?」

 いろいろな事を聞いてきた。だから僕は、アルバムを見せてあげたんだ。

 僕らがアルバムを見ていると、お母さんがカルピスを持って来てくれて、おじいちゃんの家がある田舎って言うのを説明してくれた。

「おじいちゃんの家はね、牧場をやっているの。牛がたくさんいて、毎日朝と夕方には搾乳をするの。搾乳っていうのは、牛の乳しぼりの事だよ。搾り立ての牛乳はね、濃厚な味がして、とってもおいしいの。畑では野菜を作っているから、夏にはトマトやキュウリ、トウモロコシにスイカ、採りたての美味しい野菜が毎日食べられるの。子供の頃は、おやつのかわりによく食べたなあ。近くに小川もあるから、川遊びも出来るし、家の裏の森には、カブトムシもクワガタもいるのよ」

 直樹と和弥は顔を見合わせ、「すごーい。いいなぁ~」と言った。

 僕は何だかワクワクしてきた。そして、直樹と和弥に、お土産にカブトムシとクワガタを採ってくるって約束をした。

 田舎へ行く二日前の夜、僕は、お母さんと一緒に、段ボールとリュックに荷物を詰める作業をした。着替えやサンダル、虫かごと昆虫図鑑、夏休みの宿題と日記、それからゲーム。

 僕がいろいろ揃えていると、お母さんがダンボールを覗きこんで、ゲームを指さして言った。

「草太、こんなものも持っていくの?」

「だって夏休みの間は、一日二時間までならゲームをしても良いって言ったじゃん」

 その時僕は、口を尖らせて言った。

 でも、実際にゲームを使ったのは数回だけだったんだ。

 田舎には、ゲームをしている暇がないくらい、楽しい事がたくさんあったし、最高の友達が出来たから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る