2 夜

 電車は、もう来なかった。

 最終列車が静かに去ったあと、ホームにはただ夜の気配だけが残された。


 青森市の郊外にある、無人駅。


 小さな時刻表の下に立ち尽くし、僕はしばらく動けずにいた。


 まばらな街灯がぼんやりと地面を照らし、その先の線路は暗闇に呑まれていた。信号機だけが、赤く沈んだ光を灯している。

 あたりは広い盆地の真ん中。見渡しても人の気配はない。ただ風が、遠くから何かを運んできては通り過ぎていく。


 ふと、空を見上げた。


 そこには、降ってきそうなほどの星が広がっていた。澄みきった空気の中で、星々はまるで音もなく、何かを告げるように瞬いている。

 だけど、あたたかさはなかった。ただ、綺麗すぎる景色が余計に胸を締めつけた。


 ――もう、電車はこない


 帰る手段を失った夜は、不安と寂しさをじわじわと心に染み込ませてくる。

 どうしようもなく独りだった。ただその夜を、僕は忘れられずにいる。


          (了)

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